第6話 妖怪はじめ

妖怪たちを封じた魔法の本は年の瀬に作られる。

 師走の時期は妖怪たちが最後の祭りとばかりにいたずらを働く、それを退魔師たちが封じて回るのもこの町の風物詩である。

 妖怪たちを封じた本は「妖怪はじめ」と呼ばれ福袋のように魔法使いたちに売られる。これが評判がよくこの町ならではの名物となっている。

 その日、私は年明けの準備をしていた。

 退魔師たちは紙に妖怪を封じるのだが製本はしてくれない。それを本の形にするのが私たち造本技術者の仕事だ。

 紙には妖怪の姿が描かれた絵と名前が書いてある。それを一枚一枚重ねて本にしていく。

 長い時間と集中力を使う作業だ。なぜならば、失敗すると・・・

 ようやく最後の一枚を重ねて、表紙をつけるところまできた。その時、鼻がひくひくとした。まずいと直感的に思ったがもう遅かった。

 「はくしょん!!」と盛大にくしゃみ。すると本が光りだし、爆発するように「ぼん!」と中から妖怪たちがあふれ出た。

 彼らは結界があるこの部屋からは逃げられなかったが五十匹近くの妖怪たちが狭い部屋に溢れ返った。

 人語に妖怪語などで騒がしくなる部屋で私は助けが来るのを待つことしかできない。

 多くの魔法使いたちに人気の妖怪はじめの裏ではこういうドタバタが繰り返されているのだ。

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