第5話 月を酔わせた酒の話

いい酒が手には入ったと友人が提灯片手にやってきた。まだ営業途中なのだがと言うと、どうせ客なんか来ないだろうと言って店の奥に入っていった。仕方ないと思いながらも今日は客も来ないというのは本当なので閉店することにした。

 「どんな酒なんだ?」私は酒の種類を聞いたつもりだったが友人は聞いて驚け、と前置きしてこう言った。

 「なんと月を酔わせた酒だ」

 月迷町の月はめちゃくちゃに動く。そうなった理由を誰も知らない。しかし、いくつか仮説がある。その中の一つに酒に酔ったから、というものがある。月がどうやって酒を飲むのか想像に窮するが、この町ならそんなこともあるかもしれない。

 「ささ、早速飲もう」と友人は透明なコップをテーブルに並べ、一升瓶を取り出した。どうやらその酒とは日本酒だったらしい。

 ふたを開け、ゆっくりと注いでいく。透明な酒でコップが満たされていく。

 日本酒は甘い酒しか飲んだことはなかったが、これはたぶん辛口だろうと思われた。

 一口飲むと。

 口の中に夜の澄んだ冷えた空気が広がった。まるで月が身を委ねることを許したかのような夜の空気。

 「うまいな」と私。

 「だな」と友人。

 せっかくだから月を見ながら飲もうと二人で外に出た。月を水面に映してちびちびと飲む。

 「こんなうまい酒どうやって手に入れたんだ?」と私が問うと「成功報酬さ」と友人は言った。なら幾らかもわからないのか。これほどの酒なら少し高くても買いたいと思ったが入手ルートがわからないのではしょうがない。これっきりというわけだ。と、私は自分コップを見た。すると量が減っているような気がした。こんなに飲んだだろうか?友人を見るとどうも同じことが起きているらしい。

 「もしかして」と私たちは水面に浮かぶ月を見た。

 月が酔ったという話は本当かもしれないと思った。

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