第76話 ちょっと揺らして、ちょっとなでなでして、ちょっとむにゅむにゅしてるだけ

「ああんっ……ばかぁっ……遊んでないで……教えてくださ……! わたしが……さきに……棒を出すんですから……んっ、ん……やぁっ……い、じわるしないで……」

 ルロイが下から軽く腰を突き上げるだけで、風船のように、ぱふん、ぱふん、と身体が跳ね上がって。

「ぁっ、あっ、やだ……」

 まるであばれ馬に乗せられているみたいに、何度も宙へ放り上げられる。

「ごめんごめん、女の子はどんなに頑張っても棒は出ないんだよ」

「あ、ぅう、やぁん……そんなことありませんっ……好きって気持ちがになるんじゃないんですか……だって、さっきルロイさんが好きって言ってくださるたびにがぴょこん」

 ルロイは声を立てて笑った。

「それは好き好き言ってるときに、違う意味でいろんな気持ちが高ぶるからであって」

「わ、分かりました、わたしも言います……好き、ぁぁ……好きです、ルロイさんが好き、全部好き、にこにこしてるルロイさんも好き、いっぱい尻尾ふってくださるルロイさんも好き、優しく話しかけてくださるルロイさんも好き、走ってるときのルロイさんが好き、おいしいおいしいってゴハン食べてくださるルロイさんが好き、満月の時のちょっといじわるなルロイさんも好き、拗ねてるルロイさんも好き、怒っててもやっぱり好き、すごく好き! どうですか、これだけ言えばが出せるはずです……ぁぁんっ、出てない……!」

「だから出ないんだってば」

「ぁぅううん、勝手に、身体が、動いちゃ……ゃ、あんっ……ぁっ、あっ、あ、あっ、んっ、ぴょんぴょんするのやめて、くださ、あっ……!」


 ルロイは、にやりと笑った。

「まだ諦めない?」

「ぁっ、あ、あんっ……諦めてなるものですか……はぅぅ……あれ、前が見えません……」

 さんざんおなかの上でもてあそばれたせいか。髪に巻いた耳がわりのバンダナがずれ落ちて鼻の上に引っかかる。持ち上げようとするその手を、ルロイが掴んだ。


「だいたい、俺を奪いに来るのはいいけど、そこで何でシルヴィの名前が出てくるんだよ」

「あの、前が見えな……ぁっ……触っちゃだめ……」

「どうせ暗くて見えないんだろ。目隠しなんか、してもしなくても同じ事だよ」

「でも、ちょっとムズムズ……ぁっ……あっ……何……?」

「答えてくれないと、もっと悪いことするから」

「ぁぁんっ……! だめ……答え……られませ……ぁ、あっ……取られたくないとか……そんなこと全然……思ってませんから……」

 ルロイが闇の中でにやりと笑う。舌なめずりの甘い音が鳴った。

「それ、マジ?」

「ぁっ、あ、何……わ、わたし、何か言いましたか……?」

「シェリー、もしかして……嫉妬とか、してた?」

「し、し、してませんっ……わたしは、ただ……ルロイさんが……」

 顔を真っ赤にして首を振る。

 息が、肌が、吐息の白い残影を描いて揺れ動く。

 身体が跳ねるたびに、甘えてねだる声ばっかりが押し出される。

「ぁ、あう、はうん……んっ……」


「ああ、もう、好きすぎて頭の中がどうにかなっちまいそうなんだけど。早く奪いに来て。もう待ちきれないよ。俺の全部、奪ってくれるんだろ」

「はううん……」

 跳ね上げられるたび、喘ぎ声が、甲高く押し出される。完全に状態のシェリーは、息をはずませながら眼をうるませた。

「だ、大丈夫、です……ぜったいに、逃がしませんから……」

「いや、捕まってんのはそっち」

「ちがいます……こ……これは、ルロイさんを油断させる……罠なんです……」

「その割には全然、余裕なさそうだけど。ちょっと揺らして、ちょっとなでなでして、ちょっとむにゅむにゅしてるだけなのに、もうこんな可愛い声あげられて、あんあん言われてさ。なのにじっとさせられておあずけくらってをさせられてる俺の立場はどうなんだっての。だいたい今日は満月じゃないんだからな」

「あ、ぁっ……ああ……ごめんなさ……」

「……まあ、満月じゃなくてもぜんぜん大丈夫なんだけどね」



 腰を、ぐっと両手で押さえ込まれる。心も、身体も。いっそう深く、荒々しく、それでいて吸い込まれそうなほど優しく。

 シェリーは身体をふるわせた。

「ぁううんっ……は……っ……ちゃいました、ぁ、あっ……ぁぁ……なに……」

 とろけ落ちるような、熱。

「んっ、ん……だめ、ぁぁっ……すぐに……奪い……に行きますから……ルロイさ……んっ、ん、ぁぁんっ……待って……そんなにしちゃ、ぁ、わ、わたし……」

「だからおなかに乗せてぴょこんぴょこんしてるだけだってば。まだ何もやってないぞ」

「う、うぅん、だって……いい……ぁん、あぁ……そこ触っ……ちゃイヤぁ……」

「だからまだ何もやってないって」


 視界が上下左右、めまぐるしくゆらめいて揺れ動く。そのたびに、意識を飛ばす光が飛び散る。自分が自分でなくなったみたいに、息が乱れ、身体が乱れる。

「触ろうか?」

「ぁぁん……やだ……だめ……む、り……無理です、ぅぅん、もう、無理……」


 ルロイは、ぴたりと手を止めた。

「じゃ、止めた」

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