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第74話 いつでも好きなときに始めてくれて構わないよ
「以前にアルマさんがおっしゃってました。とにかくまずは襲いかかって強引に既成事実にしちゃいなさいって、ってよく意味分からないですけどとにかく!」
シェリーは、顔を真っ赤に火照らせて、ルロイに顔を近づかせた。
「
ごくり、と唾を飲み込んで喉を上下させる。
抗わぬルロイの手首を掴んで、ベッドに押しつけて。
微笑むルロイの眼に、自分の顔が映っていた。真正面からまじまじと見つめ合う。
押さえつけたはいいものの、自分が何をしようとしているのかを思い浮かべ、何だか気恥ずかしく、我慢しきれなくなって、つい、ぎゅっと眼を閉じてしまう。
次第に息があがってゆく。
そんな呼吸の音にすらはにかんでしまって、身体中がかあっと熱を帯びた。
「ほ、ほ、ホントに、奪っちゃいますからね。だめって言っても、聞きませんからね」
面と向かって言えず、真っ赤になった顔をそむけて。ぜんぜん素直じゃない口調でつっけんどんに言ってみる。
互いに、心臓が動悸を打ち。
息が乱れて。
どきん、どきんと、追いかけ合い、響きあう輪唱のように胸が高鳴る。
それでも、ルロイと見つめ合いたい、ルロイの笑顔を見たい、ルロイの驚く顔をずっと見つめていたい。
そう、思って視線を戻すと。
満月の夜に見せる、肉食獣そのものの傲岸な表情──自信たっぷりな翻弄の眼差しとは全然違う、上気した熱の色に染まっていて。一瞬見つめ合っただけで、いつにも増して激しい思いが、あっけなくあふれ出てしまいそうだった。
これ以上、自分の思いを隠しきれない。平静な振りを保っていられない。
触れあった部分が汗ばんで、熱を帯びて、火照って、互いの心臓の音をじかに伝え合っている。
熱い。
今の、この気持ちのまま。
ルロイさんの心を。
そう、思ったのに。
今度こそ奪ってやる、とばかりに実行しようとして、いざ眼をこじ開けてみると。
目の前に、なぜか、くすくすと笑っているルロイの顔があった。
「何で笑ってるんですか。うう、負けませんよ。何としてでも棒を出さなきゃ。うー、ううん……がおお……ぐるぐる……食べちゃいますよ……ううん? おかしいです、全然出ません……」
「シェリー?」
「は、はい、もう少しで出ますから」
「何が?」
「だから、棒です……その……棒を出し入れするのが
「うん?」
ルロイはこらえきれない様子で笑い出した。肩を揺らして笑うたび、ルロイのおなかにまたがったシェリーの身体が上下左右に大きく揺れる。
「あんっ、ちょっと……きゃっ……あ、あ、あぁん……!」
力いっぱい、全体重をかけて押さえつけているはずなのに、あっさりはねのけられてしまいそうだった。
「動かないでくださ……!」
ルロイは腹を抱えて大笑いしていた。
「あのさ、シェリー」
「だめですよ、わたしから逃げようったって、そうはいきませんから……!」
「いや、そうじゃなくて」
ルロイは、押さえつけられていた手を持ち上げた。やすやすと手を返し、腕をひねってシェリーの腕を握り返す。
「あっ?」
あっという間に、組み敷いていたはずのルロイに引き寄せられた。
「あ、あれれ?」
気が付けばもう、すっぽりと抱きすくめられている。
「ぁっ、あっ……ちょっと待ってください……あんっ……動けません……?」
暗がりの中、
「ごめん。シェリーにハート奪われるの、今か今かと待ってたんだけどさ」
「ぁ、あ、いけません、待ってくださ……」
「待ちきれなくなった」
「ぁ、だめ、ぁっ……!」
「いいから早く。さっきからいつ襲われるのかと期待してうずうずしてるんだけど。何だったら俺から奪いに行こうか?」
「ぇ、いえ、あの、そうじゃなくて! わたしが、自主的に、ルロイさんのハートをムリヤリ奪うってことじゃないと、あの……!」
シェリーはあたふたして、からみつくルロイの腕から逃れようとした。
「分かってるって」
ルロイは心得た様子で気難しげに肯く。
「奪われるまいとして逃げる俺を、シェリーがあの手この手で自分のものにする、っていう
「あ、あの……他のことって……?」
「うん、いつもの」
「ぁ……あっ……!」
シェリーは顔を赤らめた。
「そ、そんなこと、されてたら……う、奪えませ……ぁ、あっ……あ……」
つ、つ、つ、と。
捕まえられた手をつたい、這うかのように。
ルロイの指先が、二の腕のやわらかい部分に触れた。
「ぁぅん……!」
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