第42話 ぶっちゅううう♪
「ぁあん、ダーリンったらぁ~~♪ 帰ったらすぐに家へ寄ってくれる約束だったじゃない~~♪」
「アルマ!」
頭のてっぺんから突き抜けるような、くねくねした声が飛び込んでくる。シェリーの胴体ほどもありそうな、もっちもちのぷにぷにした白い腕がにゅっと伸びて、グリーズの襟首を掴んだ。グリーズの身体が、あっという間に目の前からかっさらわれる。
「ぎゃあああああ」
グリーズはまるで胴上げされたかのように軽々と空中へ放り投げられ、そのまま誰かの腕に収まった。
「さっそく子作りしましょ~~♪ ほら、さっさと発情しなさいな♪ ぶっちゅううう♪」
「うぎゃああああ、ちょ、おい、待てアルマ、今さっき狩りから戻ったばかりでまだ何も……うぎゃああ誰か助け……ああああ……」
グリーズをまるで子どものように抱きしめているのは、ぽってりと肉付きもふくよかな、まさしく豊穣の女神といった装いのバルバロだった。一瞬で口紅だらけの顔になったグリーズは、むっちりと白い、巨大な胸の谷間に顔を挟まれて、じたばたともがく。
「やめろ眼鏡が割れ……」
「それでは皆様、ごめんあそばせ~? あはぁんダーリンったらぁ積極的♪ ぶっちゅううう♪」
「あっあっあっやめてお願いアルマ俺にも立場ってものが……あっあっ……ぎゃああ……」
「逃がさないから~~ぶっちゅぅううう♪」
着ていた服があっという間にむしり取られ、点々と散らばる。肉食獣に襲われた小鳥のようだった。
「あああああ食われる……」
哀れ、同衾の褥に拉致されたグリーズの悲鳴が遠ざかる。
「お、おう。頑張れよ」
ルロイは、ぷるんぷるんと超豊産体型なお尻を揺らして去っていくアルマとグリーズの背中を見送った。ぎごちなく手を振る。
さんざん理性を持てだの、身体を労れだのと、こざかしい説教をかましていたはずのグリーズの運命を思うと、さすがに憐憫の情を禁じ得ない。
「……あいつ、一ヶ月で出てこれるかな」
「……無理だろ」
「……確か前回の発情期は体重が半分に減ったらしいぞ」
「……なるほど……確かにやりすぎは禁物だよな……」
微妙な空気が漂った。
「さてと」
ルロイは気を取り直した様子で振り返った。
「荷物、持ってってやるよ。こんなにたくさんあったら、シェリーにはちょっと重いだろ」
シェリーは遠慮がちに微笑んだ。グリーズが言っていた、誰かに呼ばれている、という用事が耳に残っている。
「いえ、大丈夫です。一人で運べます」
「大丈夫だ。もう心配しなくていい。理性ならちゃんと取り戻した」
ルロイはごまかすように笑ってから、半ば強引にシェリーの手からかごを取り上げた。
「こんな重い荷物、シェリーに持たせられないよ。俺が持つ」
「でも」
「遠慮しなくていい」
ルロイはシェリーの頬に鼻先を寄せ、そっと押しつける。その甘えたような仕草はいかにも狼らしかった。ゆるやかに尻尾を振る。
「あの、でも、この後、どなたかとお会いする約束があったのではありませんか」
シェリーが訊ねると、ルロイはふんと小馬鹿にした笑い声をたてた。
「そんなの放っておけばいい。それより、これを干すの俺も手伝うよ」
「いいえ。お約束はお約束ですわ。きちんと守っていただかないと、ルロイさんのお留守を預かるわたくしの立場がございません」
言っているうちに、シェリーは何だか自分がつけつけと口うるさい女官長にでもなったような心地がしてきた。行儀見習いとして宮廷に上がる侍女は皆、わがまま放題に育った貴族の令嬢ばかり。厳格をもって鳴らす女官長でさえも、彼女たちの奔放な行動には手を焼かされていたものだ。
そんなことを思い出して微笑みつつ、きっぱりと諭す。
「先にお風呂に行って、それからきちんとお着替えして、お出かけの準備をなさってください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます