第40話 だめです
「争奪戦、頑張ってくださいね」
シェリーはにっこり微笑んでお辞儀をした。
「じゃ、わたしはこれで」
両手にかかえた重い洗濯物のかごを、よいしょ、と。揺すり上げるように持ち代えて、広場から離れようとする。
「ちょっと待った」
仲間のところに戻ったとばかり思っていたルロイが、なぜか息を切らして追いかけてくる。ルロイは滑り込むようにシェリーの前へと回り込んだ。
「やっぱ我慢できない」
「え」
「それ、きれいに洗濯したばっかりだよな」
「はい」
「じゃあ、ちょっと下に置いてくれる?」
「はい?」
戸惑いながらも、洗濯物の入ったかごを地面に置く。待ちきれない様子で足踏みし続けていたルロイは、汚れた手を服のすそでぬぐってから、いきなりシェリーを抱きしめた。ぶんぶんと尻尾を振り続ける。
「好きだーー!」
「な……何ですか、突然」
「キスしたいーーー!」
「えええ……? あ、あの、ちょっと……その、みなさんの前で、そんな突然に、何を」
シェリーはわずかに焦って、あたふたと回りを見回した。
「あ、あの、皆さんご覧になってますけど……?」
「シェリー、好きだ。どうしよう、二日も三日もシェリーに逢えなくてホント辛かった。何でこんなにシェリーのこと、好きで好きでたまんないんだろう。こういう時、何て言えばいいんだ? どう言えば俺の気持ちが伝わるんだ? ああ、もう、マジ好きすぎてたまんねえよ、シェリーが好きだーー遠吠えしたいーー!」
ほぼ手加減無しに力いっぱい、抱きしめられる。
「う、うん、そんなに、強く……されたら……苦しい、です……」
ルロイは我慢できない様子でシェリーに何度もキスし、唇をほっそりとした首筋に当てて、荒々しく吐息をついた。
「そんな声出すなよ……可愛すぎて、ああ、シェリー……俺、やべえ、マジ……あっ……どうしよう……ヤバイ、ヤバイぞ。またこんなとこで発情したら、お、おい、誰か、止めてくれ」
ルロイの手が、餓えたように腰をまさぐり始める。
「あっ、あの……ルロイさん、だめです、待って、いけません、あの、みんな見てますから……」
あやうく巻きスカートをめくり上げられそうになって、焦ってルロイの手を押さえる。
「う、うん。分かってる。分かってるんだけど、でも、その、あの、ああああ好き好き好きだああ我慢できない」
「あぁん……もう、いけませんってば……だめですって……」
「いい加減にしろ、ルロイ」
仲間のバルバロがあわてて駆け寄ってきた。ルロイの襟首を掴んで、シェリーとの間に割って入り、二人を引き離す。
「この馬鹿狼。何で当たり前みたいに腰振ってんだ。ここは天下の往来であってお前の巣穴じゃないんだぞ」
「何だと常識狼ぶりやがって。んなこと言いながらグリーズ、おまえ、今、説教ついでにシェリーに触っただろ」
「触ってねーよ。っていうかその情けない体勢でえらそうに反論するな」
「だって好きなんだから仕方ねえだろ。それよりシェリーのお尻触った分の肌の感触を返せ。俺だけのシェリーだぞ」
「……馬鹿すぎて話にならないな」
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