第8話 ドーナツ

「ぁっ……!」

 最悪の事態を避けようとしたとたん。

 振り落とされることに怯えたのか、少女は反対に焦ったようにルロイへとすがりついた。腰が微妙に揺り動かされる。

「わ、あ、あっ、動いちゃだめだって……!」

「ぁっ……えっ……?」

 少女が混乱して声を呑む。

「う、わっ……!」

 ルロイは逃げだそうとした。焦って肘を地面につき、少女の身体の下から、自分の身体を引き抜こうとして、じたばたする。


「や、や、やばいって」

「待って。そんなに急に動かないでくださいませ……あっ……どうしましょ、動けない……」

「ご、ご、ごごごごめん、ごめん、早く」

「何かが引っかかって……ぁ、ぁ……どうしましょ……」

 少女は、腰を浮かそうとしてできず、そのまま、呆然とルロイにもたれかかった。

「ぁっ……あっ……」

 みるみる、顔が薔薇色に染まってゆく。


「ど、どうしよう。ごめん、マジでホントに……!」

 ルロイは少女の身体を押しのけようとした。だが、離れようとすればするほど、少女の身体が力を失う。

「あ……もう……だめ……」

 脱力しきった吐息を漏らし、少女は腰を落とす。

「は?」

 完全に。

「だから、動かないで……ください……って」

 少女は、顔を真っ赤にし、眼をとろりとうるませながら喘いだ。



「……私……どうしたらいいのか……分からないのですけれど……いったい……どうなってますの……? 何か……その……動いたら……」

「違う、違うから、その大丈夫だから。全然入ってないから! ホント大丈夫だし!」

「あんっ……だめ、動かないで……!」

「いやいや気のせいだから! 絶対気のせいだから!」

「動いたら……苦しいの……その……」

 少女のうるんだ眼が、苦しげに宙に泳いでいる。

「何が……どうなってるのか……分からないんですけれど……動かれたら……凄く……その……ぁっ、あっ、や、やだ、ホントに、動かないでくださいませ、おねがい……ですから……あっ、ああっ……動かないで」

「動くも何も、だから勘違いだって。まだ、その、先……じゃなくて、全然、何でもないから! ちょっとした不慮の事故だ。それより、こんなことしてたら、さっきの兵隊がまた来ちまうぞ」

「それは、分かっています……でも……ぁっ……ど、どうしましょ……動けない……」

「だ、だいたい大げさなんだよお前は。ちょっと当たったぐらいで。お、俺なんかまだ、ど、ど、ど……」

「ドーナツ?」

「そう、ドーナツだから! って違うって! もう、とにかく、動くな」

「ぁ……んっ……」

 ルロイが腰を引くと。

 少女の身体が、びくん、とひきつれたように震えた。

「あっ、あっ、ああっ……」

 うわずった声が喘ぎに混じる。

「大丈夫。落ち着け。気のせいだ。全部気のせいだから。もう少しだから」

「う……んっ……」

 少しずつ、少女の身体を浮かせてゆく。

「ぁっ……ぁ……」

 あと少しで、離れられる。ルロイが思わずほっとして、気を緩めたとたん。

 目の前に、少女の柔らかすぎるおっぱいが、ふるん、と揺れるのが見えた。

「う……!?」

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