第7話 魚のつかみ取り

 まさに。

 魚のつかみ取り状態。ぴちぴちぴち。

 ルロイは、もう、声もない。


 逃げようにも逃げられない。できることと言えば、変なうめき声ひとつをあげて、逆さづり状態で横穴から上半身だけをはみ出させるだけだ。

「う、う……ううう!?」


「取れませんね」

 少女は、さらに、きゅ、っと、を握る手に力を入れた。止せばいいのに何度も何度も、根本から引っ張っては抜こうとしてみる。

「この棒、くっついたまま抜けないんですけれど。ええと、どうしましょう……? とりあえず、横に倒してみればいいのかしら? こう? それとも、こう?」

「はう!? 動かすな! って、あう!?」

 動かすたびに変な声が飛び出す。

「困りましたわ」

 少女は、を握りしめたまま、どうしたものかと考え込んでいる。

「どうしましょ?」

「ど、どうもしなくていいから。手を離して」

「そうですか」

 少女は申し訳なさそうにから手を離した。ルロイは横穴から転げ落ちた。

「大丈夫ですか」

「全然大丈夫だから」

 真っ赤な顔でルロイは前を隠す。

 いや、おかしいだろう。どう考えても、恥ずべきなのは、秘所を隠すべきなのは少女のほうであって、自分ではないはずなのに。

 と思うが。

 少女は、まるで分かっていない様子だ。さすがに悪意はないのだろうけれど、いくらなんでもこれは……

 と、そこで現実に立ち返る。

 少女が度を超した世間知らずであろうがなかろうが、追われているという事実は間違いない。のんびりしている暇はない。ルロイはかぶりを振った。

「ほら、降りてきて。受け止めるから」


「無理ですわ」

 少女は顔を伏せる。表情が曇った。

「こんな高いところからは降りられません」

「大丈夫だって。受け止めるから。ほら。手を繋いで」


 手を差し伸べて、微笑みかける。少女はうなずいた。

「お願いします」

 少女と、手をつなぐ。

「ゆっくり降りれば大丈夫──」

 ルロイは少女の足をまず支えてから、抱き下ろそうと思っていた、のだが。

 少女は、ぴょん、とそのまま飛び降りた。

 全身に、少女のやわらかな肌の感触が重みとなってのしかかった。受け止めかね、思わず姿勢を崩す。

「わ!」

「きゃっ……!」

 勢いがつきすぎて抱き合ったまま、よろよろよろめく。

 そのまま、二人同時にひっくり返った。完全に下敷きになりながらもルロイは少女を怪我させないよう、しっかりと腕に抱きとめる。

「痛ってぇ……!」

 何とか受け止められたらしい。ルロイはかろうじて耐えきり、薄眼を開けた。ルロイが身を挺して守ったおかげで、少女は無事だったらしい。

「ごめんなさい。大丈夫ですか」

 おどおととした声が降ってくる。

「う、うん?」

 起きあがれない。腰のあたりに少女の体重がかかっている。上から覆い被さっていた少女が、疲れ果てたためいきをついた拍子に。

「あ」

 ずる、とズボンが下がる。

「え……?」

 押さえ込まれていた枷がはずれたかのように、それが持ち上がった。

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