新年会の席で隣に座る彼女が聞かせてくれた話

NES

実はさ・・・

 身体は寿司でできている。


 そんなわけないだろう。何処からがネタで、何処からがシャリなんだよ。そういうことじゃなくてだな。

 私が産まれる前、母は矢鱈と寿司を食べたがったんだそうだ。ほら、酸っぱいものが食べたくなるって言うじゃない? 母の場合はそれが酢飯だったと。


 そんなわけないだろう。二回目だよ。いくらなんでもそれは強引すぎる理屈だ。酢飯なんてそんなに酸っぱくはない。

 母は『眠悪阻ねむづわり』だなんて言って、一日中ぐぅぐぅ昼寝をして。父が買ってきたパックの寿司をもりもりと食べていたんだって。なんだ、ただのぐうたら妊婦じゃないか。


 それが原因なのか何なのか、私も普通に寿司は好きだ。身体が寿司でできているってほどじゃないけれど。

 父方も母方も実家は山育ちで、海産物が高級品。お祝いと言えば寿司と決まっている。今でもことあるごとに寿司三昧だよ。


 そんな私でも、ワサビだけはダメ。

 今でも覚えている。あれは私が、幼稚園に通っていた頃の話だ。私は母方の祖父母に連れられて、デパートの中にあるレストランに入った。

 私のオーダーはお子様ランチ。そういう場所では、子供のメニューに選択肢は少ない。

 祖父は寿司、握りのセットを頼んでいた。プラスチックの玩具みたいに艶々とした活き車エビが、とてもうらやましくてさ。

 私の視線を察して、祖父が発した悪意のある一言。

「お、このお寿司、ワサビを付け忘れてるぞ?」

 それが、あの悲劇を生み出してしまったんだ。


 私は祖父を許さない。

 っていうかさ、幼稚園児に対してひどい仕打ちだとは思わないか?

 しかも私が苦しんでいる間、祖父は笑って見てたんだぞ。可愛い孫ちゃんを一体何だと思っているんだ。


 ――さて、現在は新年会の真っ最中で、祖父やつはトイレに席を立ったばかりのところだ。

 お気に入りの中トロを取り皿に確保して、すっきりしてから美味しく堪能するつもりなんだろうが。


 今私の手元には、ワサビのチューブがある。


 後はもう、判るな?

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