黒猫 弐
朝、道雅が昨夜のことを思い出しながら庭を歩いていると、
「にゃあ」
と声がした。
見ると、愛らしい黒猫が自分を見上げている。
思わず微笑んだ道雅はその場にしゃがみ、猫に問いかけた。
「猫ですか?
お師匠様ですか?」
にゃあ、と猫は答える。
「……師匠に教えを乞いたいのですけどね。
あまり師匠に近づくと、成子さまのお側には行けなくなるらしいのです」
そう神がおっしゃっておられました。
そう言い、猫に笑いかけると、
「通雅、それは猫だ……」
と後ろから声がする。
「わかっています」
と言い、道雅は立ち上がった。
「しかし、それはおかしな話だな」
と声がした。
おかしな音声だ。
さっきまで猫だったものに、悪霊が入ったようだ。
いや、中で眠っていたものが起き出してきたのか。
あの黒猫が喋っていた。
「私自身が成子に近づけると言うのに。
私と話したくらいでお前が穢れて、成子に近づけなくなるなどあるわけないではないか。
神の嫉妬だろう」
と恐れ多いことを悪霊は言い出す。
「自分の器たるお前が私を師と崇めるのが悔しくて妬いておるのよ」
と機嫌がいい。
「見てろ」
と言った黒猫は、にゃー、と可愛らしく鳴きながら、成子たちの居る方へ行く。
途中、女官たちが、
「まあ、可愛い」
と悪霊に向かい、微笑みかけていた。
「行ったな……」
真鍋が呟く。
悪霊は、とととっと可愛らしく御簾の中に入っていったが、すぐに、にゃー、と声がした。
外に出て来た命婦が、ぽい、と真鍋にそれを渡す。
あ、つまみ出された……。
真鍋が腕の中の黒猫を見下ろすと、猫は、おのれ~とまさしく怨霊のような声で言ったが、顔は可愛らしいままだった。
いまいち表情筋が思ったように動かせていないらしい。
「あれは、私を圧死させようとした命婦だなっ」
いや、殺そうと思ったわけではないと思いますが。
はは……と道雅は苦笑いした。
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