霊たち
さわさわと葉ずれのような音がすると思ったら、人の囁き声だった。
道雅が引き上げたあと、ひとり眠っていた成子は薄目を開ける。
部屋の隅に数人の女たちが集まって、ひそひそと話していた。
……増えてる。
さっきまで一人が控えているだけだったのだが、なんだかその頭数が増えている。
「斎王様は、何故、神を受け入れられないのでしょうか」
「私の斎王様もそうでしたよ」
「私の仕えていた斎王様も……」
ひそひそと話は続く。
どうも斎王に仕えていたものの霊のようだった。
何故受け入れないのかなんて。
斎王には女としての心はないとでも思っているのだろうか。
まあ、当然の義務だと思っているからなのだろうな、と思う。
っていうか、実は、何代にも渡って、邪険にされてきたとか? あの神は。
そこでふと気がついた。
斎王は代替わりをするが、神は代替わりをしないのだろうか、と。
もし、例えば、此処へ来る神がその斎王に合わせて代替わりをしているとしたら。
その斎王のために現れた神だろうに、その任期中、受け入れられずに終わるのは可哀想かな、とも思ってしまう。
まあ、他人事として考えた場合だが。
しかし、あの神と話した感じでは、そういう風な話でもなかったが。
そんなことを考えながら、成子はひょいと起き上がる。
すうっと音もなく近づき、その女たちの真後ろに腰を下ろした。
しばらく女たちは身を屈め、ひそひそと話していたが、そのうち、気配に気づいた女がひとり振り向く。
わっ、と身を引いた。
霊が驚くな……。
「斎王様だわ」
「斎王様よ」
「あら、いけないわ」
自分の斎王でなくとも、斎王ということはわかるんだな、と思っていると、彼女らは頭を下げ、すすすすっと居なくなる。
ひとり、奥に居た女が広げた扇のその上から自分を見ていた。
切れ長の目の、命婦より年配の女。
監視するように自分を『見ている』。
「いつも命婦を見ているのは貴女?」
女は扇を閉じて、そこに置き、手をついて頭を下げた。
そして、消える――。
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