神 参


 



「成子っ」


 そう叫んで居なくなった男の背を見ながら、神は思う。


 あのような身体が欲しいな、と。

 駆け出していって、成子を守れるような。


 美しい成子。


 だが、自分が成子を美しいと思うのは、その容姿のせいではない。

 彼女はとても奇麗な魂をしている。


 神である自分でさえも、側に居たら、癒されそうだと思うほどに。


 神は孤独だ。

 だから、いつも側に誰かを起きたがる。


 生贄や一夜の花嫁を欲しがる神が居るのもそのせいだ。


 ただ、淋しいから。


 だが、人を側に置いたところで、自分の想いなど理解してはくれない。

 ずっとそう思っていた。


 だが、成子を見たとき、この娘なら、なにもかも包み込んでくれそうだと思ってしまったのだ。


 人間の娘に、無茶な要求をすると自分でも思うが。


「成子……」


 近寄ることも出来ず、見つめるうち、いつの間にか、人間の男のように、成子に恋い焦がれている自分に気づいた。


 いつか――


 いつか、遠い昔に、こんな気持ちになったことがあるような。


 神である自分が思い出せないほど、遠い昔に。


 今、飛び出して行った真鍋のように、本当は成子の許に行きたかったのだが、動けなかった。


 それは、成子に近づかせまいと目論む今上帝の意志のせいだけではない。


 所詮、これは他人の身体だからだ。


 動かすときにあまり実感がなく、思うように動けないときもある。

 この手で成子に触れてもな、と思っていた。


 身体が欲しい。


 自分の身体が。


 以前から思っていたが、成子に出逢って、心の底からそう思うようになっていた。


 かつての自分には、それがあった気がするのだが。


 私は一体、誰なのだろうな、とときどき思う。


 何故、私は神になったのだろうと――。





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