神 弐

 

「私はぜひ、成子の側に行き、夜通し、語り合いたい」

と神は言い出す。


 まあ、語り合うだけならいいのだが。


 ……本当か?


 それにしても。


「成子の周りには邪気があるってどういうことだ」


「成子を誰にも渡したくない男の邪気です。

 とても強い。


 成子の霊力が身を守ろうとしていることもあり、それが増幅されて、私は彼女に近づけない」


 やっぱり、成子はお前から身を守ろうとしてんじゃないのか、と思った。


「その男って誰なんだ?」


 自分が成子の側近くに仕え、懸想し始めたのは、最近だ。


 道雅だろうか。

 あいつなら、都に居るときから、成子を知っている。


 だが、それなら、道雅の身体に平気で乗り移れるのはおかしい、とも思っていた。


「帝ですよ」

と神は言った。


「帝が成子を誰にも渡すまいとしているのです。

 この私にも。


 自分で成子をこの地に送り出しておいて、抗っている。

 強い意志です。


 ああいう男を祟り殺すと、怨霊になる。

 実に厄介な相手です」


 この神様、帝を祟り殺す気だったのか、と思った。

 それも成子を手に入れるためだけに。


「やりませんよ」


 心を読んだように神は言う。


 怨霊相手でもそうだが。

 此処では、心の中で考えたことがすべて口に出して言ったのと同じことになる。


 成子は成子で、こちらの言動を読んで、なにもかも見透かしていそうだし。

 いっそ、口を開くまいか、と真鍋は、やさぐれた。


「帝を殺すことは出来ないのです。

 彼の治世が終わるときが、斎王交代のとき、成子が此処を去るときだからです」


 まったく忌々しい、と神は言った。


 忌々しいとか神が言っていいのか、と思いながら、道雅が原型とは思えないほど、美しい男を眺める。


「私は成子を此処に留めるために、彼の命と地位とこの国を護るでしょう」


 国、最後か。


「これは人間の考えた罠なのでしょうかね。

 成子を手に入れたければ、あの男を生かさねばならない。


 だが、あの男の邪念で、成子に触れられない」


「なにか夢でお告げでも出したらどうだ。

 成子を諦めないと祟りがあるとか」


「祟られても、あの男は成子を離さないと思います。

 お前も他人事ではないでしょう」


 急に神はそんなことを言い出した。


「お前が成子とともに、この地を清浄化していけば、いずれ、私は成子の側に行ける。


 あの帝の邪念が消えない限り、触れることはできないかもしれないけれど。

 それでも彼女の顔を見、語らうくらいはできる。


 お前としては、悪霊は祓わぬ方が良いのかもしれませんね。


 ですが、このままにしておけば、成子は強い霊力を持つがゆえに影響を受け、病んでしまうかもしれない」


「そんな屁理屈はいい。

 俺があんたに訊きたいのは、どうして、道雅の身体に入ったのかと言うことだ」


 やはり、魂の違いか、と思ったが、

「この顔が一番私の顔に近かったからですよ」

と言ってきた。


 やはり、顔なのか……。


「だが、成子がお前の顔が好みだと言うのなら、お前の方に入ってみてもいいのですが」


 こだわりはないんだな。


 しかし、それはいい話なのか、悪い話なのか。

 道雅は乗っ取られている間、意識も記憶もないらしいし。


 それにしても、先程からかなり無礼な口をきいているのだが、神は怒る風にもない。


 意外に懐が深いのか、それとも、自分のことなど、歯牙にもかけていないからか。


 道雅の身体を抜けてくれたら、敬う気にもなるんだが。


 生きた人間の男の身体に入って、成子が好きだとか言っている間は、どうしても、へりくだる気にはなれない。


 神とはもっと人とかけ離れた神々しいものかと思っていたのだが。

 この神様は、随分と人間臭いようだった。


 まあ、八百万の神々がこの世にはおられるそうだから。


 いろんな神が居るのだろう、と思ったとき、井戸に近づく成子の後ろにあの女官が立った。


「成子っ」

と叫び、神を置いて駆け出していく。







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