怨霊退治 弐
『斎王様。
貴女はお美しいからわからない。
気まぐれにかけてもらった情けがどれほど嬉しいものなのか』
あの霊の言葉を思い出しながら、成子は井戸へと向かっていた。
あれは、井戸をうろつく女官の気配だった。
だが、女官は何故か顔をなくし、自分の頭の上に居た。
『斎王様』
と呼びかけてくるが、彼女は自分が此処に来たときから、霊だった。
彼女がこだわっているのは、私ではなく、違う斎王なのだろうが。
また、『斎王』ってだけで一括りか、と成子は思った。
それだけ、斎王の称号が重いということなのだろうが。
それは、言ってみれば、帝というだけで、代々祟って出てくる怨霊のようなもの。
迷惑な話だなあ、と思っていた。
まあ、可哀想な霊ではあるようだが、霊にいちいち同情はできない。
キリがないし、自分も引きずり込まれるかもしれないからだ。
昔、霊力の強い友だちが居た。
とても優しい彼女は、霊に同調しては、塞ぎ込み、ついには、寝たきりとなってしまった。
霊に祟り殺されることなど滅多にないが、影響を受け、心を病んでしまうことはある。
何度調伏してもキリがない。
彼女自身が霊を呼び込んでいるからだ。
いずれ、彼女自身が悪鬼となってしまうのではないかと思っていた。
優しいだけに可哀想な話だが、本人が心構えを変えなければ、どうにもならない。
最早、話も通じないようだし。
してあげられるのは、力のある陰陽師や僧侶を手配してあげることだけだ。
今は親が彼女を不憫に思い、他所にやってしまって、便りも出せない状態だが、それを見ていただけに、成子は、霊力のある人間には言っている。
あまり霊に思い入れを深くするなと。
だが、それは、自分自身に言い聞かせている言葉なのかもしれなかった。
それにしても、何故、あの女官の顔は消えたのだろう。
ずっと、ただあそこをうろついているだけだったのに、急に意志が明確になったというか。
やはり、真鍋のせいだろうか。
あの男が側に行くと、霊が活性化してしまう。
それは悪いことのような気もしたが。
こうして、霊の望むところがはっきりわかった方が、霊を上げやすくなるので、退治するのに、一役買っているとも言える。
まあ、些か面倒だが。
顔、剥がれたくないしな、と思ったとき、気づいた。
いつの間にか、少し前を歩いていた真鍋が、闇に呑まれたように消えていることに。
自分だけが、井戸を目前にして歩いていた。
これは怖い……。
引き返そうかなーと思ったとき、猫が足許で鳴いた。
「そ、そう。
ついててくれるの?」
なんだか引き下がれなくなってしまった。
井戸を覗き込んだ途端、中から髪とか捕まれそうで厭なんだけど。
真鍋、何処行ったーっ、と心の中で絶叫しながら、そっと井戸に近づく。
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