衣
翌朝、真鍋は下働きの女たちが集まって、ひそひそ話しているのを見た。
「どうした?」
と話しかけると、慌てて畏まり、
「あの、竈(かまど)の近くにこんなものが」
そう言って、白い布を抱えてきた。
……衣?
それを鼻先に持っていった真鍋は、うん? と思った。
「今朝、来てみたら、落ちていたんです。
釜を漁ったような跡もありました」
賊かしら?
この斎宮に?
恐ろしいわね、と女たちは語り合っている。
斎宮に賊?
ありえない。
それに、この衣。
かなり上質な布だ。
賊が脱いでいったとは考えにくい。
そして、この匂い。
「この衣は預かろう」
そう言うと、すっかり怯えている女たちは、
「よろしくお願いします」
とみな、頭を下げてきた。
朝の祈りの儀式を終え、居室に戻ろうとしていた成子は、真鍋が庭で待っているのに気がついた。
「少し下ります」
と階(きざはし)を下りると、女官たちは、みな、そこで立ち止まる。
真鍋は白い布を手に立っていた。
「それは?」
と問うと、
「竃の側に落ちていたそうです。
少し、気になることがありまして」
と言う。
「あら、今日は敬語ね」
と小声で言うと、真鍋は、
「今日は顔を隠してるんだな」
と返してくる。
みなが見てるので、面倒臭いが仕方ない。
扇で顔を覆っていた。
「命婦殿」
と階の上から見下ろしていた命婦に真鍋は、呼びかける。
は、はいっ、と慌てて命婦は下りてきた。
「これに覚えはありませんか?」
白い布を見せられた命婦は、一瞬、戸惑ったようだーだったが、あっ、と小さく声を上げる。
「この布の光沢、見覚えがあるような」
「さすがは命婦殿ですね。
ありがとうございます。
では、少し、これを鼻先に」
布を鼻に近づけた命婦は、おや、という顔をする。
「ねえ、私にも匂わせてよ」
何も訊いてくれないので、不満げに言うと、ほら、と随分ぞんざいに鼻先に持ってくる。
「敬語使っても、態度が悪いのよ」
それを少し嗅いだ成子は、あら、と言った。
「成る程、わかったわ。
それから、この布が何処から出て来たかもわかったわ。
見覚えがある」
命婦の言っている見覚えがあるというのとは、違う見覚えかもしれないが。
「そうか」
と真鍋は言い、布を成子に渡した。
「何処に行くの?」
「ちょっと確かめたいことがある」
「そう。
手荒い真似はしないでね」
と見送った。
命婦を振り返り、
「ちょっと調べて欲しいことがあるんだけど」
そう告げた。
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