第3話
「先輩、これですよね」
翌日の放課後、先輩に手紙を返した。
「ありがとう、柳橋さん。どこにあったの?」
「えっと……それは」
私が持ってたなんて、言い出しづらい。そんなこと言って、どう先輩が反応するか怖い。
「まあ、戻ってきたのならいいけどね」
そんな私の様子を見て、先輩はどうやら気遣ってくれたようだった。……バレてるのかな。
「ごめんなさい、勝手に中身読みました……」
読んだことだけは、正直に言うことにした。
「無くなるようなものじゃないし、構わないよ」
「先輩は、まだ好きなんですか? コトミさんのこと」
なに直球で聞いてるんだ、私。
「……はっきりと断言は出来ないけど、好きで居続けたいとは思ってる」
先輩は、律儀だ。だから好きなんだ。
「そんなの、一生恋なんて出来なくなっちゃうじゃないですか。いのち短し恋せよ少女ですよ」
「女の子じゃないよ、少なくとも」
「そうでした」
動揺して何言ってんだ、私。
「恋愛って、複数していいと思うかい?」
突然先輩が聞いて来た。
「そんなの、ダメに決まってるじゃないですか。浮気なんて」
「心から愛していた伴侶が亡くなった後、再婚する。するとその気持ちはどうなるだろうか」
ああ、好きな気持ちのまま、別の人を好きになる。それは複数の恋愛で、それは浮気と簡単に片付けられるものなのだろうか。
「それは例外です例外。最初の恋は続けたくても一方的なものですから」
「琴美さんも、亡くなってる。状況は同じじゃないかな。だから、琴美さんへの恋心を持ったまま新たな恋愛をするってことも出来るかもしれない」
「相手がそれを許すかどうかですよね」
「柳橋さんだったら、どう思う?」
え、そんな不意打ち聞いてない。それは私の恋心に真正面から当たらないといけないわけで、でも考えるとこんがらがっちゃって、でも……。
「どうしたの、体調悪いのかい」
「先輩がとんでもないこと聞くからです、もう……」
よし、真正面から当たっていこう。
「……先輩は律儀です。尊敬できる先輩です。だから、たとえコトミさんのことを好きで居続けても、相手にはちゃんと向き合ってくれると思います」
「……なんか恥ずかしいな、これ」
「こっちだって恥ずかしいんですから……。直接こんなこと言うなんて」
思ったことを、はっきりと。
「だから、そんな先輩が好きだから、そんな先輩の全部が大好きだから、許す許さないの問題じゃなく受け入れると思います」
勝負なんて出来ないから。好きになったからには大事にしてほしいから。
「なるほど、よくわかった」
「あと、前にも言いましたけど、忘れてるかもしれないですけど、喜久花って呼んでくださいね」
コトミという名前を初めて聞いたあの日。視聴覚室に一人いた先輩に、対抗心からか喜久花と呼んでとお願いした。
「そうだったね、喜久花さん。ところで──」
あれ、何かマズいこと言った……?
「──好きっていうのは、先輩として、ということだよね?」
あああああ!
「も、もちろん先輩としてですよもちろん!」
「本当に?」
「本当にです!」
「……本当に?」
「本当ですったら!」
どうして、こんなにくどく聞いてくるんだろう。
「後悔だけは、して欲しくないからね。いのち短し恋せよ少女、とは君が言っただろ? 琴美さんは、まさにそうだったから」
「……お墓参りいきましょう!」
思いつきは突然に。
「ま、まあ平和公園だからここのすぐ近くではあるけど、いきなり過ぎやしないかい?」
「行きましょう! いのち短し、思い立ったが吉日ですよ!」
先輩が好き。だからコトミさんのところにお参りするべきなんだ。そして、力を借りるんだ。
あなたのことを想い続ける藤田先輩が好きなので、どうかこの恋、応援してください、
と。
おわり
たからもの 愛知川香良洲/えちから @echigawakarasu
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