少年は夢を見る
@junk
少年の夢
ぼくは夢を見ていた。
何色だかわからない不思議な空間で、なぞの無重力感を味わいながらふわふわと浮いていた。
ふつうならこれが夢だとわからないけど、今回の夢ははっきりと夢だとわかる。
これは『めいせきむ』っていうやつだ。違いない。
そう確信を得たぼくは辺りを見る。
「……」
特に何もない。人とか、建物とか、何かあると思ったけど、何もなかった。
だったら、これは何の夢だろう? ぼくは疑問を抱く。
夢ならば、物語があると思う。たとえば、勇者になる夢とか、ヒーローになる夢とか、……化物におそわれる夢とか。それが面白くてもつまらなくても、間違いなく物語がある。
だけど、この夢は違う。何もない。文字通り何もない夢だ。
「どうしてだろう?」
ぼくはそう呟く。でも、その疑問に答えてくれる人は現れない。当たり前だけど。
だけど、仮にも夢だ。もしかしたら、祈れば好きな夢になるんじゃないのかな?
そう思ったぼくは早速、祈り始める。
内容は決まっている。迷う必要はない。
――ぼくが勇者で悪者を退治する夢になりますように……。
そう願った直後、世界は光に包まれた。
***
「目覚めよ、勇者よ!」
「ん、ん……?」
ぼくは怒鳴りつけるようなうるさい声で目を覚ます。
ゆっくりと目を開いて目の前に見えてきたのは、王冠をつけた、いかにも王様っぽい人の姿だった。でも、しいて言うなら黒いマントをつけているのは何でだろう?
その王様はぼくの顔を見ると、目を大きく開きながらほっとした様子で声をあげる。
「おぉ、勇者よ。目覚めたか」
「勇者? それってぼくのこと?」
「左様だ。そなたは勇者だ。寝ぼけているのか?」
「ううん。違う。何でもない」
何でもないって言ったけど、内心ではスゴく驚いてる。
ぼくが願ったら、まさか本当に勇者になったんだから。驚くのも当たり前だと思う。
「そうか。ならば良い。そして、勇者よ。そなたに討ち取ってもらいたい魔物がいる」
「魔物? どんなの?」
「その魔物はロボットだ」
「ロボット?」
「ああ、そうだ。ロボットだ」
どうして急にロボット? ぼくはあまりも急な展開に首をかしげる。
ロボットってことは機械ってことだし、この世界はぼくからみ見れば勇者がいるし、ファンタジーの世界みたいだし、何より勇者がロボットを倒す話なんて聞いたことがない。
まあ、夢だからしょうがないと諦めた。
「……わかったよ。ぼくがそのロボットを倒してくる!」
「ありがとう、勇者よ! 帰ってきた暁には褒美を進ぜよう!」
「うん、わかった!」
ぼくは元気よく返事をする。
ほうびって何なんだろう? おもちゃかな? でも、ぼくはサッカーボールが良いな。サッカーボールを蹴って走り回りたいから。たとえそれが夢でも、だからこそぼくの夢を叶えてもらいたいしね。
ぼくの反応を聞いた王様は嬉しそうに笑顔で何やら取り出した。
「では、こやつを案内人として渡すから、これについていってくれ」
「はーい!」
これはちょうちょかな? 白くてキレイなちょうちょだ。
キレイなちょうちょが案内してくれるなんて……やっぱりファンタジーらしくていいな。
白いちょうちょはゆらゆらと羽を動かしながら動き出す。
ぼくはそのあとを付いていくために走り出した。
・・・
白いちょうちょのあとを追ってたどり着いたのは、川沿いだった。
川には水が流れていて、すぐそこに橋もある。結構長い橋だから当たり前だと思うけど。
「でも、どうして川? 機械は水に弱いと思うけど……」
相手がロボットで機械だったら、水に弱いと思う。水にぬれたらショート? しちゃうと思う。
だけど、白いちょうちょがここに案内してくれたってことはここに現れるんだろう。
ぼくはゆっくりと川へ近づいていった。その直後、
「ピピピ! ピピピ!」
まるでアラームのような音を出すロボットが現れた。
ぼくよりも全然大きい。手足もあるし、どっからどう見ても強そう。
でも、ぼくは勇者として勝たないといけないんだ!
「行くよ!」
「ピピッ!」
ぼくはロボットに向かって走り出した。
腰につけたサヤから剣を抜いてロボットにぶつける。
カキンッ! 良い音が響く。だけど、ロボットに傷一つない。
「硬いよ!」
ぼくはロボットに文句を言う。だけど、当たり前だけど聞く耳を持たない。
ロボットはアームの先でぼくを殴りつけた。
「いたっ、」
ぼくは後ろに強く飛んで木に体がぶつかる。
スゴイ威力だ。たった一回の攻撃で結構飛んだ。
だけど、そこまで痛くない。これも勇者だからだろう。
「今度はぼくの番だ」
ぼくは強く剣を握り、走り出す。
「うおおおおお!」
「ピピピピピッ!」
ロボットはアームの先で叩くようにぼくに攻撃を仕掛ける。
でも、ぼくはそれをかれいに避けると、今度はさっきより強い一撃でロボットの足を狙う。
その作戦が上手くいったようで、前のめりに倒れるロボット。大きな音を立てながらうつ伏せの状態になる。
「チャンスだ!」
ぼくはロボットの上に乗り、一番弱そうな首の部分に剣を突き刺す。
「ピ、ピ、ピ、ピッ!」
グサッと剣が首に刺さったロボットは悲鳴のような大きな音を鳴らす。相当効いたんだと思う。
だけど、まだ倒せてない。
ぼくは剣を抜くと、もう一度刺そうと振り下ろす。
「ピピッ!」
でも、ロボットは急に起き上がりぼくは落っこちてしまう。攻撃失敗だ。
尻もちをついて地面に落ちる。お尻が痛い。でも、大丈夫!
ぼくはお尻をさすりながら立ち上がると、ロボットと向かい合う。
「ピーーーーッ!」
ロボットは今までとは違う音を出す。怒ってるのかな?
それでも倒さないと!
「これで終わりだよ!」
ぼくは再び走り出して迫る。
ロボットも抵抗するようにアームの先で攻撃してくるけど、当たらない。左右に動きながら避けていく。
そして、ぼくはロボットの目の前までたどり着いた。
「トドメだ!」
決め台詞を言ってぼくは剣で胸を強く突いた。
ロボットはその突きに耐えきれずに後ろに倒れる。そして、後ろには川! つまり!
「ピーーーーーーーーーーッ!」
「やっぱり!」
やっぱり機械だ。水に弱い。
水に触れてしまったロボットは一気に悲鳴のような音を鳴らして動きが止まった。
「倒した!」
ぼくは嬉しさのあまりガッツポーズをする。
夢でも勇者として悪者を倒せた! こんなに嬉しいことはない。
「さてと、ほうびをもらいに行こうな……あれ? ちょうちょ?」
もう帰るのかと思ったけど、白いちょうちょは川にある橋の方に向かっている。その先に何かあるのかな。
「もしかして、まだ敵がいるのかな?」
だったら倒さないと!
ぼくは白いちょうちょのあとを追って橋を渡っていった。
――これからも勇者として頑張らないと!
ぼくはそう決めて掛けていった。
***
「ピ――――――――――――――」
無機質な音が響き渡る。その音の根源である機械は、一直線の線を描きながら一定の音程の電子音を出し続けていた。
その傍らには沢山の機械が取り付けられた少年がいる。
ベットに寝転がり、瞼を閉じて寝ていた。
その少年は生きる為に沢山の機械を取り付ける必要があった。その為、外にまともに出たことがない。出れたとしても特別に許可が下りた場合だけだ。
しかし、その機械達の役目も終わりである。
線を描く機械が再び波打つ時はないのだ。
少年は夢を見る @junk
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