エピローグ的な何か…まぁつまらない思い出話が一つ増えただけですよ

こうして、僕の異世界旅行は幕を閉じた

残った問題もあるし、どころか解決した問題の方が少ない、むしろ無いと言っても過言ではない。だけどまぁ、こうやって戻ってこれたことをまずは祝おう

アースさんが用意してくれたゲートに入ると、すぐに感じたのは痛みだった

頭をどこかにぶつけたような衝撃が、僕の神経に走る。勘弁してほしい、僕の灰色の脳細胞が死んだらどうするんだよ、未来の人間国宝がが一人減るぜ

「自分で言ってて悲しくなりませんか、その手のジョーク」

ほっとけ、僕は強い子だから問題ないのだ

「あの、アースさん、何かに蓋をされている感じなんですけど」

「蓋?おかしいな、一応そのゲートは私の魔法とホシロの魔法を組み合わせて、通る人が思い浮かべる、思い入れの強い場所に着けるゲートなんだけどな」

いつの間にホシロさんが協力したんだろう、さっきまで僕たちと駄弁ってたよな。そして、なんともまぁ都合のいいゲートなことで

僕はもう一回そのゲートに入り、手を伸ばした

真っ暗んな空間の中で、すぐに伸ばした手が何か固いものに当たった

「…あ、これ動くぞ」

固い何かに、ちょっと力を加えたら、まるで使い古された勉強机のように、ガラガラと音を立てて動き、それと同時に光が差し込んだ

「って、これ僕の机の引き出しじゃん」

顔を出すとそこは見知った僕の部屋だ

首だけ出してきょろきょろと辺りを見わたした。なんか今の僕、タイムマシンから出てきたドラえもんみたいだな

靴を脱いで、引き出しに足をかけ、壊れないようできるだけ体重をかけずに引き出しから出て、荷物を引き上げた。出るときの弾みで引き出しは閉まった。脱いだ靴は向こうで処理してくれるでしょう、どうせ向こうのだし

僕は少しよろけながら、近くに会った自分のベットに腰を掛けた。奴の屋敷で借りていたベットよりも固い、ベットのふわふわさが足りない、女の子のにおいが足りない。良いものには慣れるもんだな

引き出しから出るためどたどたしたが、その音の余韻もなくなり、時計の針の音だけが静寂な部屋に響き渡る。屋敷にいた時は、完全なる無人、というのは滅多になく、耳をすませば何かしらの生活音が聞こえてきたのだが、不思議と今の時計の音のみの空間の方が安心できる

「それにしても、一週間以上部屋を空けるのって、地味に初めてじゃないか。なんか新鮮と言うか、懐かしさを感じるというか」

少しの間謎の感動に包まれていたが、ふと引き出しの方がどうなったのか気になった

もしかして繋がったままなのかな、そんな期待?を抱いて引き出しを開けたが、その中にはもう異世界の風景なんてものはなく、いつの物かわからないような、捨てるに捨てられないプリントなどが乱雑にしまってある

向こうの方でゲートを閉じたのか、はたまたアースさんが力尽きたのかそれは分からないが、僕の異世界旅行記はここで完全に終わった

机の上においてある時計を見てみると、最後に確認した日付の一週間以上後の日付を映し、夕方の五時を少し過ぎた時間を表示している。シングルマザーでありワークママである母さんはまだ帰ってこないが、今までのことを説明しなくちゃいけないと思うと、今から憂鬱だ

「だけど、ちゃんと謝らないとな。僕に落ち度はないと言え、心配させただろうし」

それに、あいつのこともちゃんと話さないと

「ねぇ、母さんになんか伝えとくことってある」

ゲートをくぐる前、ついさっきのことを思い出した

「そうですね、それこそ伝えきれない、文字通り伝えきれないほどの言葉がありますが」

奴の続きの言葉を待った

「とりあえず、私は元気でやっていますってことと、何とか機会を設けるので直接顔を合わせてください、そのお願いを伝えてください」

私は逃げも隠れもしません。男らしくそう付け加えたが、当たり前のことにそう付け加えられても、微妙なダサさしかない

「謝罪の言葉とかは伝えとかなくていいの、現状報告とか」

「分かってて聞いてますよね」

おやおや、気を利かせたつもりなんだけどな、口元がニヤついているからってそんな邪推をしなくても

「それは直接自分の口から言わないと意味がありませんからね、あなたの口を借りる必要はありません」

「ハッ、それはあくまであんたの理屈だろ。取り残されて、少しでも近況を知りたい人の身にもなってみろよ」

「ええ、それは凌雅がお願いします。どうせ自分の身に何があったのか伝えなくちゃならないのですから、その時にでもあなたの目線であなたが感じたことをお話しください」

「…僕はあんたを擁護しないよ」

「どうぞご自由に。私もあなたが、私のフォローを入れてくれるとは思っていないので。どころか、あることないこと吹き込まれることも想定していますよ」

あいつは結局、本当にアースさんに語った展望の通りに、国と神を言いくるめて再び僕のもとに現れるのだろうか。そして母さんと奴を合わせていいのだろうか

それを決めるのは僕じゃないし、僕にはどうすることもできない。異世界ではちょっとした勘と推理力と話術を使って、多少の冒険…てほどでもないし、活躍…は特にしてないし、あれ、僕異世界で何かしたっけ。美少女と戯れてただけじゃないのか。まぁ何にしても、僕は異世界でライトノベルや漫画の主人公よろしく、そこそこのイベントはこなしてきたつもりだ、貴族や悪そうな研究者や神様を相手取ってきたつもりだ、だけどここでは、平和な日本では僕は、何の力もないどこにでもいる高校生ってことか

英雄を英雄足らしめる最大の要因は世が乱れていることである、と昔読んだ本に書いてあったが、案外その通りなのかもしれないな。ここには僕の力ではどうすることのできないものが多すぎる

「だけど、そんな大きなものじゃなくて、せめて家族くらいはどうにかしないとな」

スケールを大きくして目の前の問題から逃げてみたが、まぁ逃げ切れないよな。よく、海を見ていると自分の悩みがちっぽけになる、みたいな話を聞くが、いくら小さくなったって悩みは悩み、解決しなくては意味がない

「…母さんが帰ってくるまで時間もあるし、ちょっと外の空気でも吸ってくるか」

久しぶりの日本の空気だ。なんか「ヒャッハー、久しぶりの娑婆の空気だぜ」みたいな感じで少し嫌な言い方だな

一週間やそこらで何が変わっているって訳でもないが、外の景色はひどく懐かしく感じた。家々のカーポートに収まっている車を見ると、なんだか進歩を感じた

当てもなく歩いていると、近所の公園についた。カラフルな遊具が設置されているが、中には誰もいなくてひどく閑散としている、あっちの世界では広場のような場所ではしゃいでいるたくさんの子供がいたものだ。まぁどっちが良くてどっちが悪いとかはないんだけど

「個人的には静かだから人がいないほうが好きだけど…あれ、あの木に何か引っかかっているな、なんだあれ」

入り口のすぐ近くの木に白い何かが見えた

僕は周りに人がいないか、車が通ってきそうにないかを確認した当て、木に手と足をかけた

そんなに高いところではなかったため、五分ほどの奮闘の末になんとかとることができた

「なんだこれ、紙飛行機?」

…なんか見覚えのある紙飛行機だな

折ってあるのを開いてみると、そこには計算問題が印刷されてあり、上の氏名欄には『榊凌雅』と記入されてある

「これこの前紙飛行機にして飛ばしたやつだ」

いつぞや外に向かって飛ばした奴だ、まだこんなところにあったんだ

そう言えば、あの時も奴のことを考えていたんだっけ、ちょうど昔の作文を見つけてさ

「案外あっさり見つかるもんだな」

もう見つからないと思っていた、どころか見つけるまで記憶の隅にすらなかった

案外あいつも、こんな感じなのかな

もう会えないと思っていた、劇的な別れもロマンチックな葛藤もなく、ろうそくの火が消えるようにスッといなくなった奴だが、会うときは試練も困難もなく、事故みたいな偶然の末に再会した。なんか、僕の人生にバグが発生したみたいだな

「この心境、母さんが理解してくれるかなぁ」

僕は空に向かって、ヘラっと笑った


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行方不明になっていた父親が異世界で美少女ハーレム形成していた ここみさん @kokomi3

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