幕間5

S-17『叶と未那が喋るだけシリーズ3』

※註:明るく楽しい愉快なお話です。






「しっかしまあ、三か月近くも経てば慣れてくるもんだよなあ、何ごとも」

「何、未那? どったの、いきなり」

「いや、まあ大して考えて言ったわけじゃないんだけど」

「……それはいつもじゃない?」

「うるさいな。なんでお前はシームレスでリアクションが俺への罵倒に繋がんだよ」

「悪いとは思っている」

「それ、思ってるだけだろ」

「だけだね」

「意味ないんだよなあ。ていうかもう話が変わってるし。お前と話すといつもまっすぐ行かなくて困る」

「こっちの台詞なんだけど……ていうか、そもそもなんの話だったわけ?」

「ん、まあ、なんだ。ほら、中学からだいぶ環境が変わったからさ」

「そりゃ進学したんだし、そんなもんでしょ」

「言ってることはその通りだろうけど。にしたってだいぶ変わったほうだからさ、俺は」

「…………」

「それはお前だってそうなんじゃないのか、叶?」

「ん……まあ、否定はしない」

「だろ? なんつーか結構、激動の時代だったわけよ。俺にとって、この春ってのは」

「激動の時代、ねえ……」

「いや表現はなんでもいいんだけどな? 環境的な変化もそうだけど、それ以上に内面の、こう、違いっていうか」

「まあ、周りが変わるのと、自分を変えようとするのはたぶん違うことだからね。言いたいことはわかる」

「わかるのか……今の説明で伝わるとは思わなかったが」

「もう慣れたよ」

「さすがというかなんというか。でもまあ、そういうこと」

「ふぅん?」

「高校に進学して、親に頼んで独り暮らしを始めて。バイトも始めたし、新しいクラスメイトとも仲よくなって、これまでとは違う人間関係を築いて。何より、自分自身のやり方を変えて――」

「――そして女の子の部屋の壁を破った」

「それは違う」

「や、違わないでしょーに」

「違わないけれども。でも違うでしょ。……違うよね?」

「実際、変わったっつったら、最たるものが今のこの状況なんじゃないの?」

「…………」

「同棲だよ、同棲? 高校生が。クラスメイト同士で」

「同棲って言うのやめてもらっていい? なんか生々しくて嫌だ」

「わたしだって今ので嫌になったわ……なんでそういうこと言うかな、この男は。デリカシー足りてないんじゃないの?」

「お前はカルシウムが足りてねえよ、たぶん」

「おいどういう意味だ。それはわたしの身体的特徴を揶揄しているのか。喧嘩を売っているのか」

「そうやってすぐ怒るとこを言ったんだけど……や、まあ体もそうなのかもしれんが」

「こ、この野郎……そゆこと言うか普通?」

「お前相手に言いたいことを」

「遠慮しないってね! 知ってますけどね! くそう……わたしだって好きで(胸が)小さいわけじゃねえぞ……」

「え、何? まさか(身長が)小さいの気にしてたの? ちょっと意外」

「は……はあ――!? べっつに気にしてませんけどぜんぜんしてませんけど――!?」

「めっちゃしてるリアクションだってのは言わないでおいてやろう」

「そういう気遣いいらねえ――っ!」

「まあいいんじゃない? 俺だって別にそんな大きいほうじゃねえし。平均よりはあるけど」

「……え、ごめん。何言ってんの?」

「は?」

「何を、言っているの……?」

「二回訊くレベル?」

「いやだって意味がわからないし。何? なんなの? 測ったの?」

「お前だって測っただろ……」

「何言ってんだ!?」

「三回目!? お前こそマジで何言ってんだ……そんなにコンプレックスだったのか」

「コンプレックスじゃない!」

「んー……まあ確かに俺ももうちょっと(自分の身長が)大きいほうがよかったとは思うけど……」

「にゃっ!?」

「何? 猫?」

「え、いやだって今、(わたしの胸が)大きいほうがよかったって……」

「まあ好みの問題だけどな」

「へ、へー? あっ、へえー。ふーん。あ、そっか。ふーん?」

「なんだよ……」

「何って……いや、そんなまっすぐ言われると思わなくて」

「……?(この人はなぜ照れているのだろう)」

「やっぱ、何。あれなの? 男子は、(女の子の胸は)大きいほうがいいの?」

「別に(高身長に憧れるのは)男子に限らないと思うが」

「むぐっ」

「そんなダメージ受けなくても」

「……別に受けてねーやい」

「あっそう。俺はお前は気にするほどじゃないと思うけど……」

「べっつに男子からの評価とか気にしてねーよ! うるせーばーか!」

「うっせ。あくまで個人的な好みだよ。それで言うなら、そんなに(身長は)大きくないほうが俺は好みだけどな」

「さっきと言ってることが違わない!?」

「いや同じだけど……」

「えーと。これはあくまで参考までに訊くけど、女の子(の胸のサイズ)はどのくらいが好きなわけ?」

「え? いや特にこだわりはないけど……まあ」

「まあ?」


「――俺よりは小さいくらいかな」

「いやいくらなんでもそこまでじゃねえわあ――!」


「はあ!? いやお前は、どう見たって俺より小さいだろうが!」

「こ、この……っ!? い、いくらなんでも言っていいことと悪いことあるだろうが! おま、お前……っ」

「お前の話じゃないけど、そもそも……いやにしたって一目瞭然だろ? お前もはや拗らせすぎて現実見えてないんじゃないの?」

「――――――――殺す」

「そんな据わった目で!?」

「オマエ、イッテハナラヌコト、イッタ。ユルサナイ」

「片言!? なんだよ、わかったよ! そこまで言うなら横に立って比べてみようじゃねえかよ!」

「ほーんじゃあかかってこいやあこらぁ!」

「んじゃそこ立てや」

「おう来いや」

「……」

「……」


「「――ほらこっちのほうが大きいやウッソでしょ!?」」


「待て待て待て叶。さすがに。さすがにない。さすがにそれはない」

「いや。いや待てほら。よく見ろ。よく見ろ? よく見ろはおかしくないか? じろじろは見るなよ……いやでも、ん……まあいい。やっぱり見ろ。もう何度も見ただろ実際。いややっぱおかしいなあ!?」

「さっきからマジで何を言ってんだお前は」

「未那こそ何言ってんの本当に。ねえ。さすがにおかしくない? さすがにこれはセクハラ入ってない? 結構前から」

「なんで!?」

「なんでなんで!?」

「身長の話してだけでそこまで言われる意味がわからねえんだけど!」

「身長の話はしてなかったんだけど!?」

「え?」

「……あ、え。あ、そっか……身長の話をしてたのか未那は」

「お前はなんの話をしてたの!?」

「セクハラ死ね」

「だからなん――いや。えっと…………あっ」

「――っ」

「あ。あー……なる、ほど?」

「……いやなんか言えや。せめてこう、なんか……なんかは言って。お願いだから」

「え。あー……うん。――ごめん」

「ふんっ!」

「痛ったい蹴るなや!?」

「わたしが無限に恥を掻かせられたんだから仕方ないでしょ!」

「勝手に自爆しただけだろうが!」

「いーや違うね、未那が悪いね完全に! だからデリカシー足りてないって言ってんだよ!」

「いやお前こそなんで胸の話だと思ってたのにナチュラルに続けてんだよ! 最初の段階で言えよ!! そんな話、俺がするわけないだろ!?」

「わたし相手にならするかもしれないと思ったんだよ!」

「ならお前が悪いよねえ!? そもそも俺が自分の胸のサイズ測るわけがないよね!?」

「男子の身体検査など知らん! わたしは悪くない! 未那が悪い未那がばか、このばーかっ!!」

「……あー。まあ、……ごめんな? そんなに気にしてると思わな――」

「とりゃあっ!」

「甘いわ! つか危ねえわ!? 攻撃をやめろぉ!」

「ふーっ、ふーっ……くそっ! 未那と話してるといっつもこうだ!」

「……まあ、男子と胸のサイズを比べ合った高校生女子はそうそうこの世にいな痛い痛い痛い痛い痛い! ごめん、ごめんて、今のはごめん!」

「くぬっ、この、このこのこの……っ!!」

「だ、大丈夫だって! あの、ほら、そういうのが好きな男だってこの世にはきっと」

「だから外部の評価なんて気にしてねえんだよわたしはよォ!」

「えーと。……俺は嫌いじゃないよ?」

「完全にセクハラじゃねえか!」

「フォローだよ!」

「フォローしてんじゃねー! アレか、わたしはフォローされなければならないほど哀れか? あァ!?」

「……やっぱ気にしてんじゃん……」

「つーかアンタのフォローだって嘘だろうが!」

「べ、別に嘘じゃ……」

「…………へえ」

「な……なんだよ?」

「いや別に。――さなかは大きいもんねえ?」

「ああ。あれはすごい……いや、あれは本当にすご痛ったい! なんで!? お前から言ったじゃん!! わかったよ、ごめんて! もう今のトラップだろ!?」

「もう最悪だよ未那。信じらんない。ホントばか」

「…………」

「はあ……なんでこんなのといっしょに暮らしてるんだろうな、わたし」

「……もともと、そういう話だったのにな。脱線のほうが長いんだよな叶と話すと」

「うっさい、ばか。ばーかっ」

「……あくまで客観的に見れば、お前はかわいいと思うけど」

「死ね」

「死ねて」

「そんなこと知ってんだよ。そんなゴミカスみたいなフォローしてくるのがムカつくってんだ」

「ゴミカス……」

「ああもう! まったくまったく予想外だよ、ほんとにまったく! こんな奴とひとつ屋根の下になるなんて!」

「お前が言う?」

「わたし以外に誰が言うのさっ!」

「俺」

「お前が言う?」

「もういいわかった。……ま、でもさ」

「あんだよ」

「や、最初の話に戻るんだけどさ。そんなことでも結局は慣れるんだなあ、って。思ったんだよ」

「……ふん」

「なんかお前とは、ずっとこんな風に下らない話ばっかしてそうだよな」

「…………」

「……なんか言ってくれよ」

「別に。――言わなくても通じること、わざわざ言わないといけない仲じゃないでしょ」

「……それは」

「うっさいキモい、こっち見んな。鈍感セクハラクソ野郎」

「敏感な心が傷ついたわバカ」

「はあ……まあいいや、未那だもんねー。言ったってしょーがないって話。今のは」

「ちょっと嬉しかった心を返してほしいなー……」

「…………」

「…………なあ」

「あん?」

「今からほのか屋でも行こうぜ。いっしょに」

「…………」

「…………」


「いいよ。付き合ってあげる」

「おう。そいつはありがとよ」



     ※



























 匿名希望の旧友氏「このあと滅茶苦茶」

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