S-16『プロローグは終わり、そしてここから――』
ん、んん。あーあーあー。
オーケーオーケー、届いているかい? ぼくの声は君に、伝わっているかな。
それなら重畳、問題なしだ。このまま少しだけ、君の注意を貰おうか。
もしも届いていなくても――うん。
それならそれで、やっぱり問題はないんだろうけどね?
はは。
まあこれは文章だから、君はこれを耳ではなく目で確認することになると思う。
あるいは、最後まで君の下へは届かないか、だ。
知っての通り、ぼくは持って回った話し方をする人間だ。ご存知なくともお気づきだろう。
昔は……そうだね。まだ小学生くらいの頃は、この話し方を心なく揶揄されたものさ。
だけど仕方がないだろう?
ぼくのこれは、ぼくが尊敬していた人を――もう少し限定しよう――ぼくの父親を真似たものなんだ。
これは、未那も実は知らないことだった気がするよ。
教えたことがあるような気もするけれど、ないような気もする。3:7で後者に賭けようか。
なんて言ったら、未那なんかはきっと、そうだね。
「お前は自分が話したことくらい、全部覚えてると思ってた」
とかなんとか、きっと言うんじゃないかな。これには10を賭けてもいいぜ。
つまり不成立ってコトだからね。
そして、言っておこう。
もちろんそんなことはないんだぜ、と。
未那はどうしてか、ぼくのことを《すごく頭のいいすごい奴》なんて、すごく頭の悪い理解をしているきらいがあるけれど。
ぼくが何もかもわかっているとか、どんなことでも察しがつくなんて風に思われちゃあ困る。
マンガやアニメに出てくる天才キャラじゃないんだぜ。そんなこと、できると思うほうがおかしいだろう。
つーか、わかってたらこんな風にはなっていなかったぜ、きっと。
なんて傍点つきで言うことでもないか。話を戻そう。
ぼくの話だ。
何もわかっていなかったぼくは、けれど当時は何もわかっていないということさえわかっちゃいなかったんだ。
ああ、小学生の頃だね。
そんな風だから、これは排斥されてしまうのも当然で、なんならぼくは少し気味悪がられていた。
ぼくを避けずに遊びに誘ってくれたのは――それこそ未那くらいだったのを覚えているよ。
おっと、ストップだぜ。
だからって、当時のぼくは、別に未那へ感謝していたってわけじゃない。
むしろ煩わしく思っていたくらいだと表明しておこうか。
いつもいつも声をかけてきやがって、なんなんだこのバカは。
当時の心境はそんなものだったさ。悪いね、ぼくはそこまでかわいげのある子どもじゃなかった。
かわいいのは顔だけなんだぜ。
うん。
今のはもちろん、今は違うということの照れ隠しなんだ。愛してるぜ、友達。
ま、とはいえ今の話は、別段これからのことに関係はしないよ。
ただおおよそ……そうだね。きっとこれを読んでいる人には届くと思って書いている。
――なぜ?
と、きっと《君》はぼくに訊くことだろう。
訊かないとしても疑問はするはずだよ。何もわからないぼくにも、それくらいのことはわかる。
だから先んじて答えておくのさ。
これだ、ってね。
これが理由だ。ほかはない。ぼくの動機はその程度のものだっていうことだよ。
はは。中身のない過去の思い出話で悪かったね。
まあ君が無駄にした時間の、きっと数倍を今ぼくは無駄にしている。なんせ、こんなに長文を書くのは久々だ。
手が痛いよ。
だから本題に入ろう。これを読む君へ、ぼくから伝える言葉は多くある。
けれど、それが君に届くかどうかがわからなかった。ぼくの懸念点はおおよそ、そこだ。
――だからね。
どこかの誰かである君へ。
ぼくから伝えることは、ひとつ。
いつだって、ぼくは君へ、言葉を届けたいと思っている。
だから、君はぼくへ、きっと言葉を届けてほしい。
それだけだ。
君の親愛なる宮代秋良から、ぼくが愛する君へ。
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