S-10『秋良と未那が喋るだけシリーズ1』
(註:もう起きている)
「おはよう……おはよう……未那、朝だよ……おはよう……」
「……」
「聞こえるかい? 聞こえているかい……? ぼくの声は君に届いているかな……?」
「…………」
「今、君の脳内に直接語りかけているよ……」
「……………………」
「――耳元から」
「それただ距離が近いだけなんだよなあ物理的に!」
「ふーっ」
「ふぎぃ!? 何!? なんで吐息を吹きかけてくんの? なんで継続したの今の!? やめろやぞっとしたわ!!」
「ようやく反応してくれたね」
「反応したあとも継続して攻撃? してきただろ……何? なんなの朝っぱらから。喧嘩売ってんの?」
「そんなつもりはないとも。というか、未那が狸寝入りを決め込むのがいけないんだよ? 構ってくれないなんてつれないじゃないか」
「お前そんなキャラじゃないだろ、ったく……朝からテンション高ぇな」
「秋良ちゃんは寂しいぞ☆」
「だからお前そんなキャラじゃないだろ! なんなんだそのテンション!!」
「いや? くく……相変わらずいい反応をしてくれる。ぼくは楽しくて仕方ないよ」
「こいつ……別に俺はお前を楽しませるために存在してるんじゃないんだよ? そこんとこわかってる?」
「わかっているとも」
「本当かよ」
「もちろんさ。これはただ、ぼくが未那のことを大好きだから構ってほしいだけなんだぜ?」
「えー。気持ち悪い。やめろよ照れちゃうだろ。気持ち悪い。かわいい女の子にそういうこと言われると男は舞い上がるんだからな。気持ち悪い」
「……」
「何、怒った?」
「まさか。やっぱりリアクションがかわいらしいと思っただけだよ、このツンデレめ☆」
「うっぜえぇぇぇぇぇ……」
「さて。というわけで、おはようだ、未那」
「……おはよう、秋良」
「ん。挨拶を返してくれて嬉しいぜ友達。さて、休日の惰眠を優雅に貪るのもいいが、そろそろ昼も近い。起床して、一日を開始することを提案させてもらおうかな」
「朝っぱらからお前の面倒臭い言い回しを聞くのも久々だ……」
「朝からぼくのかわいい顔が見られたんだぜ? むしろ役得ってものじゃないか」
「そんな言い訳で人の布団に潜り込んできたこと弁解できると思ってんの? 起きた瞬間、目の前にお前の顔が寝そべってた俺の気持ちわかる?」
「わかるさ」
「あ、絶対わかってないヤツだコレ。でも一応訊くけど、じゃあどんな気持ち?」
「ムラムラする気持ち」
「あー、惜しいね。非常に惜しい」
「名残惜しい?」
「その惜しいじゃねーよ」
「じゃあどんな気持ちだったのかな?」
「答えはイライラする気持ちでしたー! つまり惜しくない!!」
「それはハラハラする気持ちになっちゃうぜ」
「いや喧しいわ。むしろお前はモラハラしてる気持ちを自覚して?」
「セクハラ?」
「言ってないしやってないしお前だし」
「朝食、というか兼昼食はもうできているよ。さて、食事にしようじゃないか」
「あっさり流すぅー。てかお前、今わかったわ。さてはお腹が空いたから起こしにきたな?」
「そうだよ」
「あっさり認めるぅー!」
「朝からこってりしたものは重たいだろ?」
「そういう話はしてないから。てか別に先に喰ってりゃよかっただろうが」
「おやおや。わかっていないのは未那のほうじゃないか」
「なんだよ……」
「せっかくいっしょの朝なんだぜ? 君といっしょに食べたほうが美味しいに決まっているだろう」
「…………」
「おっと、今度は本当に照れてくれたようだね」
「……お前のそういうとこ、俺、嫌い」
「ぼくは未那の全部が好きだぜ」
「朝から充分に重たいんだよなあ……愛がこってりしすぎなんだよ、お前……」
「嫌かな?」
「……嫌じゃないけど」
「ならよしだ。ご馳走様といったところだね。愛い奴だぜ」
「これ本当はパワハラだったのでは……」
「ほう? パワーバランスで言えばぼくが上だと認めるのかい」
「そういう言われ方をするとアレだけども」
「まあ仕方ないよ」
「仕方ないって」
「未那如きがぼくに勝てるわけないんだから」
「如き!? え、今、如きって言った……? お前、そんな風に思ってたの……?」
「はははは」
「笑って誤魔化せると思わないでいただけないかな?」
「惚れた弱みという表現もある」
「……えぇー。中学んとき俺のこと振ったお前がそれ言う?」
「本気ならともかく、未那は単に手近な女子に舞い上がっていただけだろう」
「それも本気と言えば本気じゃないの、今思えばだけど。お前の言う本気のハードルが高いだけだろ」
「未那だからね」
「え、いやおかしいよね? 俺の話じゃなかったよね?」
「そうでもないさ」
「あ、そう……ていうか何? じゃあ本気だったら受けてくれたわけ?」
「さて。どう思う?」
「それ訊き返すとか鬼かよお前……」
「逆に言うけれど、なら今、まだぼくを好きだというのなら確かめてみればいいだろう? 告白してみるかい?」
「…………」
「聞いてあげてもいいけれど」
「……いらんわ」
「だろうね」
「俺、ほかに好きな子がいるんだ」
「恋敵だね」
「だろ……あ、お……え!? それ――」
「ぼくもその子が好きなのさ」
「あ、そっち? ――え、そっち!? 俺が!? 恋敵って俺が!?」
「今一瞬、ぼくが未那に惚れていると思っただろう」
「あの言い回しだったらそう思うだろうが! 自分の性別を考えなさいよ!」
「ぼくが未那に今さら惚れるわけないだろう」
「ああ、そうですか……そうだな。まあそれはそうだ」
「…………」
「ひとつ訊いていい?」
「その通りだよ」
「……まだ何も訊いてないんだけど……」
「君が訊こうとしていることくらい察しがつくさ。訊きにくいことだから、わざわざ訊いていいか、なんて確かめたんだろう? じゃなきゃ君は普通に訊く。そしてこの流れで訊きにくいことなんて、まあ決まっているようなものだ」
「察しがよすぎて普通に怖い……」
「褒め言葉として受け取っておこう。そして答えは言った通り、その通りさ。だから今さらなんだよ」
「……やっぱ、お前は愛が重いな」
「愛と恋は違うんだよ」
「何がだよ」
「字がだよ」
「はっ倒すよ?」
「押し倒す?」
「字が違うどころか何もかも違う!!」
「いずれにせよ、恋が重たい君よりマシだ」
「ああそうですか。……いいや、メシにしようぜ」
「そうだね。食後のコーヒーは未那に任せるよ。鍛えたという腕を見せてほしいな」
「無闇にハードル上げんじゃねえよ、って言いたいとこだが、まあ任せろ」
「楽しみにしておくとしよう」
「ん。……顔洗って、叶起こしてくるわ」
「……叶ねえ」
「ん? なんだよ?」
「なんでもない」
「あ?」
「――青春してるな、と思うだけさ」
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