幕間3

S-09『さなかと未那が喋るだけシリーズ1』

(註:喋るだけシリーズの時系列は基本的に気にしないでください)






     ※



「……ねえ、未那。ちょっと相談があるんだけど」

「ん、なんだ?」

「やー、ほら。例のあの……ヒロイン関係の相談というか、なんというか」

「ヒロイン関係の相談」

「むぅ、繰り返さないでよ。ちゃんと見てくれるっていう約束でしょ」

「あはは、冗談冗談。んで相談って具体的には?」

「えーとさ……ちょっと、未那に教えてほしいことがあって」

「いいよ、なんでも訊いて。何が知りたい? 効率的な脅迫せっとくの仕方? それとも威圧感のある笑顔の作り方とか?」

「なんでそんな怖いこと言い出したの!?」

「おっと、すまん。秋良が出た」

「なんで中に住んでるみたいな言い方したのさ……ていうか秋良っていったい……」

「なんだっけ。俺のスリーサイズだっけ?」

「さすがに興味ないよ!?」

「だよね。じゃあ代わりにさなかのスリーサイズを――」

「いや教えないよ!? そんな自然な流れっぽく装ってもぜんぜん自然じゃないよっ!!」

「釣られなかったか……」

「それで釣られると思われてたことが心外すぎるんだけど……」

「さなかだけに」

「サカナみたいに言わないでほしいなあ! てかなんでさっきからボケ倒してくるの!?」

「……あー。いや、ごめん、つい。ほら……俺ってツッコミキャラじゃん、基本?」

「――――――――――――――――」

「その『この人いったい何言ってるんだろう』的な沈黙には反応せず続けるけど、いや、周りがボケばっかだからさ。たまには俺もボケたいっていう、なんだろ……欲求が溜まってたというか」

「だからってわたしをツッコミにしないでよ……」

「さなかといえばツッコミみたいなところあるじゃん?」

「ないよ! ……え、ないよね?」

「…………」

「あるの!? どうなのっ!?」

「で、なんの相談だっけ?」

「そこで本題に戻るのやめてほしかったなあ!!」

「ははは」

「……まあいいけど。じゃあちょっと訊くね?」

「どんと来い」

「あのさ」

「おう」

「わたしって」

「さなかって?」

「――萌えないのかな?」

「も、……へ?」

「いや、だからやっぱり萌えないよねって。そう思って」

「…………」

「そこで無言になるのやめてほしかったなあ……」

「すみませんでした」

「そこで謝るのもやめてほしかったなあ!!」

「さなかはツッコミじゃなくてやっぱりボケです」

「そこでさっきの結論を出すのもやめてほしかったなあ――!!」

「いや、だって……何? もえる? もえるって。もえるって何よ。ファイヤー的な意味で言ってる?」

「そうじゃなくて。ヒロインってやっぱり萌えるモノなんでしょ? よく知らないけど」

「俺もよく知らないけどどうだろう……」

「だからわたしは考えたのです」

「考えたのですか」

「わたしに足りないのはたぶん萌え要素だと!」

「考えちゃったのですか」

「どうかな!?」

「考えが足りないですかね」

「全否定だ――!?」

「だってそんなこと言われても……そもそも萌え要素って何よ。具体的には」

「それを未那にも考えてほしいってことなんだけど」

「無茶振りにも程ってものがあるでしょう」

「まあそう言わずさー。やっぱり男の子の意見って大事だと思うんだよ。うん。大事大事」

「んー、いや考えるくらいはもちろんいいけど……方向性が」

「つまりアレだよ。《いまいち萌えないさなかちゃん》を萌やしていこうというプロジェクトだよ!」

「自分で言うんだ!?」

「うん。自分で言ってなんか傷ついた」

「身を切っていくね、さなかは」

「切り身って言いたいの? さかなじゃないよ?」

「先に言われた……」

「《さなかをプロデュース》だよ」

「それ養殖というのでは」

「さかなじゃないっちゅーに。さなかだっちゅーに」

「なんでちょっと持ちネタにしつつあるの」

「え? えへへへへ……」

「喜ばないで。そんな個性の獲得で喜ばないで。もっと上見てこう?」

「で? なんかないっすか、未那さん」

「未那さんは皆さんじゃないからね……えー、萌え要素って……何。どういう方向性?」

「萌えればなんでもいいよ」

「そこだけ聞くとなんか尖ったアニメ好きの台詞みたいだなあ。まあでも要はキャラ付けでしょう? 任せろ、得意分野だぜ」

「さすが高校デビュー勢」

「その言い方マジでやめてもらっていいですかすみません」

「で、で? たとえば何があるかな?」

「そうだな……萌えと言えば」

「萌えと言えば」

「やっぱりツンデレが基本なんじゃないのか」

「ツンデレ」

「いや、そんなナンセンスみたいにいわれても、俺だって別に詳しく――」

「……ツンデレってなんだっけ?」

「そこからかー。いや、最初はツンツンしてるけど仲よくなるとデレデレするっていうヤツ……みたいな? 具体的に説明しろって言われるとわかんなくなってくるな……」

「あー、聞いたことある。知ってる知ってる」

「おっと雑ぅ」

「アレでしょ? ――べっ、別にあんたのためなんかじゃないんだからねっ!」

「……」

「ってヤツでしょ? ……あれ、違う?」

「違うっていうか」

「うん」

「事実として本当に別に俺のためにはやってないよね?」

「わたしのためだったー……」

「……まあでもある意味で俺のためといえば俺のためな気もしてきた」

「え?」

「ためというか、得ではあるというか。や、なんでもない。ともあれその方向性だ」

「なるほど。どうかな!?」

「……そうだね。じゃあちょっとツンデレっぽいことやってみてよ」

「え? 急にそう言われても……」

「ならリピートアフターミーでいこう」

「お、おう……任せとけい!」

「じゃあ行くぜ。『べ、別にあんたのためなんかじゃないんだからねっ!』」

「『べ、別にあんたのためなんかじゃないんだからねっ!』」

「『なんなのよこの駄犬! あんたなんて駄犬だわ! もう知らないんだからっ!』」

「うぇ!? 『なんなのよこの駄犬! あんたなんて駄犬だわ!』 え、えーと……『もう知らないんだからっ!』」

「『ふん! このあたしが付き合ってあげてるんだからね! 感謝しなさい!』」

「『ふん! このあたしが付き合ってあげてるんだからね! 感謝しなさい!』」

「……よし、なるほど」

「どうだったっ!?」

「――ぜんぜんかわいくないな!」

「三回もやらせといてぇ!?」

「なんか思ってた以上にさなかには似合わなかった」

「ねえ、わかってたよね!? わかっててあえてやらせたよね今ね!?」

「さなかだって薄々わかってて乗ってきたじゃないの……」

「そうだけど……うぅ、未那がいじわるだよ今日……」

「…………」

「ふーんだ……どーせわたしはヒロインなんてガラじゃないですよーだ……」

「……………………」

「……どしたの未那?」

「いや。さなかはやっぱ、普通のまんまがいちばんかわいいと思って」

「……………………」

「さなか?」

「……そういう」

「そういう?」

「そういう恥ずかしいこと、よく真顔で当たり前みたいに言えるよね」

「……あー……指摘されたら恥ずかしくなってきた……」

「あ、いや、いんだけど別に……」

「……お、おう……」

「お、おほん! まあともあれ、じゃあ実はわたしは萌えるってことでいいのかな!?」




「――いや、それはどうだろう」

「そこは否定するの――!?」

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