2-09『オアじゃないよねアンドだよね2』
あの日――つまり望くんが、かんな荘に訪れた日。
叶の乱入からしれっと逃亡を図った彼は、去り際に握手を求めてきた。
だがあれは何も親愛の情を示したとか、そういう意味合いではなかったらしい。
望くんは俺の手を握ったわけじゃない。正確に表現するのなら、俺の手にメモ帳の切れ端を握らせた、と言うべきだろう。
電話番号が記された、一枚の紙片を。
叶にバレないように、俺に連絡先を残していったということだ。
あの場で書いている暇などなかった以上、前もって準備してあったはずだ。まさか叶に渡すために書いてきたとも思えない。
つまり望くんは、初めから俺の存在を知っていたということになる。
恐ろしいまでのしたたかさだった。
いや実際マジで普通に怖い。
望くんはあのとき、姉である叶が何かを隠している様子だったから部屋を見にきた、と言っていた。
だが俺が――少なくとも誰かしらが同居している事実を、あらかじめ知っていたというのなら話は変わる。望くんは明らかに、俺に会うことを目的としていた。
その周到さは恐ろしいものの、姉である叶を心配してのことならば、別段とやかく言うことではない。実際には警戒されるどころか、むしろ懐かれてしまったわけで。
いろいろ考えて電話を掛けてみることにした俺に対して、望くんは言った。
『我喜屋先輩。週末、お会いすることはできませんか?』
と。
正直に言うなら「なんで?」という感じだが、そこは俺とて主役理論者。さなかを誘うことに失敗した以上、次なるイベントに飢えていたこともあってすぐ了承した。
この面白い後輩ともう少し話してみたいと思ったのも事実だったし、姉と同居する謎の男を受け入れてくれるというなら応えたいとも思う。
そのふたつのイベントを、まさか同時に消化する羽目になるとは思わなかったけど。
※
高校生といえば貧乏の代名詞(断言)であり、食事をするにも場所は選ぶ。
そんな中で、ファミリーレストランの存在感は一種独特なものがあるだろう。
値段は手頃でメニューは豊富、何より居座ってもドリンクバーが味方してくれる。高校生が集まる場所として、これ以上に適した店もそうそうないだろう。
まあ、その割には場の雰囲気が、なかなかずいぶんアレ(婉曲表現)ではあったが。
「えー……注文も各々済ませたところで、そろそろご挨拶など……ねえ? 初めて会うという方もありますので、ひとつ行っていきたいな、というところでございます、はい」
俺は言った。自分でも何言ってんだという感じが甚だしかったが。
チェーンのファミレス、テーブル席。時間もあって店内は少し騒がしいが、今の状況を考えればむしろありがたい。
なにせ正面には望くん、左横にはさなか。
……この組み合わせは想定していなかった。
どうしてこうなってしまったのか。それを考えてみれば、どうしても何も俺がふたりを連れてきたせいでしかなく、もういろんな意味でなんと言っていいのかわからない。
だとしても、言葉を紡ぐのは俺の役目だ。
だって、あとのふたりは初対面なのだから。
「はい。こちらの彼、名前を友利望くんといいまして、なんとあの友利叶さんの弟君であらせられます。わあ、びっくりですねえ? で、望くん。こちらの彼女は、私と叶さんの友人にしてクラスメイトであるところの湯森さなかさんです。お世話になってますよー」
「どうも。友利望です」
「あ、どうも……えと、湯森さなかです」
「…………」
「…………」
やだ、どうしようこの空気。ふたりして黙っちゃったんですけど。
わかるけど。紹介されてもって話ではあるけれども。でもしないわけにもいかないし!
だが逃亡の二文字は主役の辞書に載っていない。俺は言った。
「うーんと、はい。それでは、まあ、なんです? あとは若いふたりに任せて私は――」
「何を言ってるんですか、我喜屋先輩」
「未那?」
「――なんて冗談を言ってみたりしつつ、えーと。うん。あの。……どうしようね?」
まあ逃げられませんよね。わかってます。言ってみただけです。
こう、場の空気を少しでも和ませようという配慮です。滑ったわけじゃありません。
……落ち着け。別に駅で揶揄されたような修羅場というわけではないのだから。片方はそもそも男だ。服装が中性的なのも相まって、なんか美少女に見えるけど。
ようやく取り戻された冷静さ。
それを離さないように、俺は望くんへと向き直った。
「えーと。まあ、まず望くんの要件から聞こうか」
「……ものすごく今さらなんだけど、わたし、ついて来ちゃってよかったの?」
「あー……駄目だったかな、望くん?」
焦るあまりさなかを連れてきてしまったが、もともとは望くんとの約束だった。
無理やり引っ張ってきておいて、今さら帰れとも言えない。望くんには悪いが、さなかなら俺たちの事情も知っている。いて困る、ということまではないだろう。……たぶん。
望くんは、相変わらずの透徹した表情で俺を見据え、言う。
「いえ。それは大丈夫です」
「そっか。ならよかったんだけど」
「むしろ好都合なくらいです」
「……好都合?」
やっぱりよくなかったのでは、という不安が一縷、脳裏をよぎった。
けれど、その理由が自分の中で咀嚼されるより早く、望くんはこう口火を切ったのだ。
「単刀直入に訊きますが、我喜屋先輩の好きな女性のタイプを教えてください」
俺は答えた。
「ちょっとドリンクバー行ってくるね?」
それはもう満面の笑みで即答させていただいた。
今の俺の明るく爽やかな雰囲気、このレベルならば勝司にも劣るまい。リア充へまた一歩近づいたと言えよう。じゃねえよう。
うん。おかしいな。
なんで修羅場っぽい感じが継続しているのかな?
とにかくひとまず避難だ。戦略的撤退。主役的回避。
そういう間が必要だった。
「望くんは何が飲みたい? 君の分も持ってくるよ」
あくまで爽やかに俺は言う。気の利く先輩を演じるように。
決して《ついて来られるとまずいから》という思考が読まれてはならない。
「……では、オレンジジュースを」
望くんは少し迷ってから、そんな風に答えた。
「了解。さなかはどうする? いっしょに持ってくるけど」
「えっ!?」
一瞬、さなかは狼狽えたように言った。今日のさなかはずっと狼狽しているような気もするけれど。
揺れる瞳が、裏切るのか、わたしを置いていくのか、と訴えていた。
ものすごく切実な置いていかないでオーラ。
「わ、わたしも手伝うよ! ほら、ひとりで三つ運ぶのは大変でしょ!?」
「そうだね! それじゃあさなかにも手伝ってもらおうかな! ふたりで行こう!」
罪悪感に敗北して、俺はそう答えることに。
席を立ち、こちらをまっすぐ観察している望くんからの視線には気づかない振りをしてドリンクバーのコーナーへ。
そこでさなかが、ほっとひと息つきながら言った。
「……今、未那、わたしのこと見捨てようとしたよね?」
「う」ちょっと拗ねたような視線に射竦められる。「いや……そんなことはないよ?」
「ホントに? 困るよ、こんな状況でふたりっきりにされても」
「さ、さなかなら上手くやるかなあ、って。ほら、コミュ力高いし?」
「てことは、やっぱり置いていこうとしてたんじゃん」
「……誘導尋問か」
「してないよ! もう、未那のばか! 無理やり連れて来たくせにさ!」
「悪かったよ……ここは奢るから機嫌直してくれ。俺だって割と切羽詰まってたんだ」
「……そういうことで解決しようとするの、よくないと思うなあ」
「ごめん。でも頼む。俺も望くんと会うのまだ二回目だし、なんか間が掴めないんだよ。ひとつ俺を助けると思って! この恩は、また別の機会に返すから!」
冷静に考えれば、やっぱりさなかについて来てもらったのは正解だった気がする。
さすが叶の弟だけあって、望くんはどうやらだいぶ変わっているようだし。あの独特の雰囲気に、一対一で対処できる自信がない。
さなかはしばらく俺の顔を見ていたが、少しするとどこか嬉しそうに噴き出した。
「なんか意外。未那って、もっと要領いいのかと思ってた」
「……いや、要領で言うならさなかだって思ったより咄嗟の事態に弱いよね? さっきの焦りっぷりすごかったぞ? ちょっと面白かった」
「むぅ。あんな風に強引に手を引っ張ってこられたら、誰だってそうなると思うけど」
「ご迷惑をおかけしました……」
「あ、ううん。本当はあんまり気にしてないんだよ?」
さなかは軽く手を振って、そして微笑んだ。
「なんか、ちょっと楽しかったし」
「……ならよかった、のか?」
「ん。いいんじゃないかな。こんな面白い状況、普通そうそう起こらないし」
「おお……!」
俺はちょっとした感動でもって、さなかのその言葉を耳にした。
まさにそれこそ、主役理論の第一歩。
同じ考えを共有できるのなら、これに勝る喜びはないだろう。
起こる出来事を、受け入れようという度量がさなかには備わっている。
「あ、いや――受け売りなんだけどね?」
俺が目を輝かせたことに気づいたのか、わずかに手を振ってさなかが恥じらう。
「受け売り? 今のが?」
「んー……そういうことを言ってた人を知ってるって感じかな。なんでもいいから、何かが日常に起こることを期待して、だから自分から動くんだーっていう人」
「すげえ気持ちがわかる……何その人、めっちゃ紹介してほしい……」
「んー、いや。それは無理だけどねー」
「マジか……残念」
「あっはは!」
さなかはなぜか面白そうに笑った。
けれど、それからすぐに表情を変えると、テーブル側を窺うようにして呟く。
「……それで。なんで未那は、あの子に好きなタイプを訊かれてるの?」
「あー……」
まあ、それが気にならないはずもあるまい。
ていうか、俺も正直、あんな風に直接的に訊かれるとは考えていなかったのだが。
「男の子……なんだよね?」
「だいぶかわいらしい顔してるのは事実だけどね。実は女の子だったりはしないでしょ」
そんなマンガみたいな展開が俺の人生に起こるようなら、主役理論など考えていない。
ただ、さなかのほうは、さきほどの望くんの冗談を真に受けてしまったようで。
「ならどうして……狙われてるの、未那?」
そんなことを訊かれてしまう。
俺は苦笑しながら答えた。
「まあ、ある意味」
「本当に狙われてるのっ!?」
「んー……なんか、どうも姉の恋人だと思われてるっていうか。むしろ姉の恋人にされそうになってるっていうか。そんな感じ」
俺は、望くんがかんな荘を訪れたときの話を手短に伝える。さなかがホットコーヒーをカップに注いでいる間に。
……時間が稼げるし、俺もあったかい飲み物にしよう。
「望くんが何を考えてるのか、正直いまいち掴めないんだけどね。どうも姉を売り込みに来てるみたいで」
「……ふーん。へ、へえ……あ、そうなんだー……ふーん」
なんだか曖昧な表情のさなかさんであった。
「まだ疑ってる?」
「……まあ、ある意味で」
「不穏なこと言うなあ。そういう趣味はないつもりなんですけど」
「そんなことよりどうするの? 受けるの?」
「受けるわけないでしょ。だって叶だよ?」
「……………………ふぅん」
「でもなんか言っても聞かない感じで。俺に彼女がいないのは言ったし、同居してるのも知ってるから、なら姉はどうですかってさ。なんか……なんだろ。気に入られたみたい」
それ自体は素直に嬉しいし、ありがたいと思うけれど。
かといって、叶とどうこうというところまで話が飛躍してはついて行けない。
自分の分のカップにダージリンのパックを入れ、お湯のボタンを押す。
「どうしたもんかなあ。なんか、いい方法とか浮かばない?」
なんとなしにさなかにも訊ねてみると、彼女はなぜか顔を真っ赤に染めた。
「ひゃえ!?」
「……え、何? どしたの?」
「あ、えと、いや別になんでもっていうか! その――えっとね!?」
ピー、という音がそのとき鳴った。お湯が一定量注ぎ終わったという機械の主張。
紅茶のカップを手に持った。そんな俺を見て、やがてさなかがこう提案した。
「あ、あのさ。未那。もし未那が嫌じゃなければ、なんだけど――」
三人分の飲み物を持って、俺とさなかは席まで戻った。
オレンジジュースのグラスを、望くんの前に置く。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます、先輩」
「いえいえ」
と笑いながら、自然な様子を装って席に着く。
その時点で何ひとつ自然じゃない。
さなかもさなかで、かなりぎくしゃくした動きで座っていた。
そんな俺たちの様子が不自然すぎたからだろう、望くんはきょとんと首を傾げた。
「……先輩?」
「ああ。えっと……そう、俺がどんな女の子がタイプかって話だっけ」
「え。まあ、はい。それを伺おうと思いまして」
ファミレスの店内でふっと息を吸い、ゆっくりと吐いて深呼吸。
オーケー。言えるはずだ。何、恥じらうことはない。別に嘘をつくわけじゃない。
俺は口を開いた。
「そうだね。まあ明るい女の子が好きかな、基本的には。あと優しい子」
「……思ったより普通ですね」
「何を言うと思われてたのか気になるけど……まあそれはいいや。ほら、俺は割と誰かといっしょに遊んだり出かけたりするのが好きだから。そういうのに、無理なく付き合ってくれる子だと、お互い気を遣わなくていいんじゃないかと思うんだよね。やっぱり明るく振る舞ってるときがいちばん楽しいからさ、人生。普段から集団の中心にいるような、いつも笑顔で明るくみんなを見守ってるような、そういう子が好みだよね!」
言ったぜ。
言ってやったぜ。
顔から火が出んばかりの恥ずかしさを押し殺しながら断言した。
主役ならこれくらいの台詞は、歯が浮こうが砂糖を吐こうが、言い切らなければ嘘というもの。
隣に座るさなかが、ものすごく小さな声で「ぅあ~……」と呻いているのも聞こえてはいたが、申し訳ないけれど我慢していただきたい。
そもそも言い出しっぺはさなかだ。
「なるほど。では外見ではどうでしょう?」
一方の望くんは、あくまで淡々と淡白な調子を崩さない。叶とはまた違った意味で実にマイペース。
こう見ると、ああ、やっぱり叶の弟なんだなあ、と思わされなくもない。
しかし外見……外見の好みときたか。
まあ、告げる言葉は決まっている。
「そうだな。まあ、身長は俺より低いくらいがいいかな。細身で、でも健康的な感じで。髪はショートカットがいいと思うな。うん、明るい色合いだとなおいいと思う」
「……はあ」
さすがの望くんも、こうも露骨に言えば察するだろう。
つまり、俺が明らかに特定の個人のことを話しているという点に。
望くんの視線が俺の横側にずれる。
それを追うように俺も隣のさなかを見た。
「――――~~~~っ」
ものすっごい悶えていた。
顔、真っ赤。もう耐えられないとばかりに、両手を膝に乗せて俯いてしまっている。
打ち合わせ通りのはずなのに。こうまで恥ずかしがられると、俺だってさすがに照れが抑えられない。
もう実質、当人の目の前で告白しているようなものだった。
望くんは、再びこちらに視線を戻して、それから言う。
「――要するにそちらの……えーと、湯森先輩が、我喜屋先輩の恋人ということですか」
そういう作戦だった。
さなかが、俺に提案してくれたのだ。
――未那にもう恋人がいるってことになれば、弟くんも諦めるんじゃない、かな?
と。確かに、それならこちらにも断る大義名分ができる。
だが現実、俺に彼女はいないわけで。つまり誰かが彼女役を務めなければならない。
――だだだから、その、もし未那がよければ、えと……わたし、やるよ?
なんだか妙な展開になってきたと、そう思った。そこまでする必要があるだろうかとも考えた。
それでも、俺はほとんど考えもせずにさなかの提案に甘えることを決めた。
疑似カップル。
なんて通常まずあり得ない青春イベント、逃す手がどこにあるだろう。
そういうこと。
「我喜屋先輩には、恋人はいなかったと聞きましたが」
「うん。あのあと実は、そう。付き合うことになったんだよ」
「そうですか……その割にはなんか、ものすごく悶えていますけれど」
「はは。まだ付き合いたてだからね! ラブラブなのさ!」
「そうですか」
「シャイなところもかわいいよね! もうぞっこんってヤツだよ!」
半ばヤケだった。
何が恥ずかしいって、あながち嘘でもない辺りがいちばん恥ずかしい。
さなかもそんなに照れないでほしかった。なんかもういたたまれなくなってくる。
「……では今日は、本当はデートの予定があったんですか?」
望くんの追及は続いた。さすがに無理があったかもしれない。
「あ、うん。いやそういうわけじゃないんだけど」
「付き合って最初の週なのに?」
「おっと。うん。まあ、そうね? いいとこに気づくね。さすが、うん。そういう、ね。目聡いところ、なかなか、あれね。悪くないよね。握力だよね(?)。捉えるぅ(?)」
「……………………」
望くんの追及が止まった。だがその視線は、怪訝さを隠そうともしていない。
――これ完全に疑われてますね?
冷や汗を流す俺。さなかのほうはさっきから何も言ってくれない。
少しくらいフォローしてほしいところではあったが、こうまで恥じらっている彼女にそれは望めまい。
こうして恋人役を買って出てくれているだけで、充分にありがたいと思うべきだろう。
「……わかりました」
やがて、望くんは静かに呟いた。
「すみません。なんだか無理に付き合わせてしまったみたいですね、我喜屋先輩」
「あ、いや。そんな。こっちから連絡したわけだし……むしろなんかごめん」
「そうですか。ありがとうございます。優しいですね、先輩は」
「……あはは……」
「しかし……そうですか。午後はいっしょにどこかへ遊びに行こうかと思っていたのですが、この分ならご遠慮したほうがいいかもしれませんね」
「いや、そんなことは」
さすがに罪悪感が強くなってきた。
これ以上、叶との仲を勘繰られないための緊急処置ではあるが、一度した約束を無下にするわけにもいかないだろう。仮にも年下に、そんな気を遣わせては間抜け極まりない。
だが。
問題ないと告げた俺に対して、望くんはにこりとした微笑みを見せて言う。
「そうですか。お邪魔にならないようならよかったです」
「――……うん?」
「それなら、せっかく知り合ったことですし、午後は三人で遊びましょうか」
……俺は慄然とした。
さなかですら、恥じらいも忘れて顔を上げている。
要するに望くんは言ったのだ。
お前らが付き合っているなど信用できないから、午後はそれが本当かどうか見極めさせてもらおうじゃないかと、暗に。
この少年、愛くるしい顔をして、けれど俺たちの態度をまるで信じちゃいなかった。
「食事が来ましたね」
やはり淡々とした様子で、望くんは近づいてくる店員を見て言う。
テーブルの上に並べられる三人分の料理。なんとなくそれを眺めていた俺に、望くんは食器を手渡して、薄く微笑むようにこう言った。
「どうしたんですか、先輩? はい、フォークをどうぞ」
「あ、うん。ありがとう……」
「頂きましょう。――冷めてしまう前に」
にこりと微笑む望くん。そんな言葉さえどこか意味深に聞こえてしまって。
与しやすしとは思っていないが。
それでも想像以上に、どうやら手強いようだった。
……どうする、俺?
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