転生×2
虎視眈々
第1話 魔王転生
魔王城にて、勇者のパーティと魔王が対峙している。勇者のパーティは勇者(戦士)、武闘家、盗賊、僧侶、魔法使いによって構成されている。
勇者の全身を覆うのは純白の鎧。その精巧な作りは誰もが魅了されるであろう。手には選ばれし勇者のみが抜けるという伝説のエクスカリバーを携えている。背丈は170cmほどで、整った顔立ちをしている。少し金髪がかった色の髪をしており、美青年である。
武闘家は上半身に鎧を纏ってはいなく、手に自分の背丈弱の大きさを誇るハルバードを持つ。顔もゴツく、勇者よりも10cmほど背丈があり、180cmちょいと少々高い。
盗賊は動きやすさを重視し、軽装である。しかしその内には数多のアイテムを保有しているようだ。髪は黒で全身を漆黒に覆い、鋭い目が特徴的だ。あまり見分けはつかないが、男のようである。
僧侶は長く白い髭を携えた、御大。白いローブに身を包み、回復魔法を生業としている。パーティには欠かせない人物だ。背丈は勇者とあまり大差はなく、腰も曲がってない。
魔法使いは僧侶とは正反対。漆黒のローブを身に纏い、攻撃あるいはバッドステータスを付与させる魔法に特化している。若々しい女性の魔法使いで、少し背丈が小さく、小柄だ。
最後に魔王。顔は勇者同様整っている。背丈も勇者に近く、髪は漆のように黒い。外見で人間と違う点といえば頭から生えている二対の角と体から迸る禍々しいオーラである。魔王に相応しい格好をしており、ザ魔王という感じだ。
さて紹介も済んだところで話を進めさせてもらおう。
「待ちかねたぞ、勇者よ。よもやあの小僧がこれほどまでになるとは思わなんだ。我も随分と永く生きたものだな…。配下の情報はあてにならぬな。そう思わぬか?…まぁよい。今はお前との決着をつけねばな。さぁゆくぞ勇者よ!全力でお前達の覚悟を俺に見せるがいい!」
--数十分後
「エクス…カリバー!」
「ぐふっ⁉︎お、おのれ...勇者よ。我が負けるとは…。だが我は諦めぬ。またいつかお前に復讐してやる。その時まで平和ボケしながら生きているがいい。 アイルビーバック…」
どさっ
魔王はこうして倒され、世界には平和が訪れ、人類は穏やかに暮らしていくのだ。
そして魔王が倒された数時間後、魔王は息絶えた状態で祭壇上に横たわっている。
『復活魔法-Resurrection』
その魔法がかけられると魔王はゆっくりと目を覚まし、祭壇から身を起き上がらせる。
「今回で何回目だ?」
「おめでとうございます、魔王様。今回で1万回目となりますよ。」
魔王の臣下であるサタナキアがにこやかにそう告げてる。
「一万回⁉︎毎回毎回冗談じゃねぇっての!」
そう、魔王は1万回討伐されたのだ。RPGでよく魔王を倒すと思うのだが、魔王を倒しているのはあなた一人だけではない。魔王は一人しかおらず、代わりがいない。一つのRPGを通して数多の人によってプレイされ、魔王は何度も滅多打ちにされているのだ。同時にプレイされる時はどうするかって?それは魔王がNA○TOみたいに影分身しているからだ。多分。
「俺は自室に戻る。悪いが、誰も部屋に入れないでくれ。」
「魔王様...」
先ほどはにこやかになっていたサタナキアが心配そうな顔つきになっているが、そんなことは頭の隅に追いやり自室に戻った。
バタンッ
魔王は自室の扉を勢いよく閉め、何かが決壊したように次々と自らの不満を口にする。
「討伐されて、復活して、討伐されて、復活されて、討伐されて…。もうこっちは気がおかしくなっちまうんだよ!さっきのくだりだって勇者側からしてみれば初めてだったろうが、こっちは演技してまで戦ってんだよ。最初は良かったよ?伝説の勇者と戦うってなって、結構アドレナリン出まくって、高揚感たっぷりだったよ?」
さっきの勇者とのくだりだって最初は真面目に戦う気があって言ってた言葉だったし。勇者は必死だったろうけど、俺は楽しんでたよ。最初の方は勇者とは互角で、そりゃ攻略法とか広まってなかったから、良い感じにクロスゲームを味わって負けてたんだよ。
「けどさ、最近の勇者ってさ、どのパーティが最適で、どのスキルが最適で、どの装備が最適かってもう魔王攻略済みなんだよ!おまけに俺の攻撃パターンも把握してるし?どうやって勝てっていうんだっ!ねぇ、何でそんなに毛嫌いするの?俺そんなに悪いことした?はぁ、もうこんな生活嫌だ…抜け出したい...。
あ、そうだ。もう魔王なんかやめて、新しい生活を過ごせばいいのか。なにも魔王なんかにこだわる必要性なんてないしな。」
そうして小さなメモをサタナキア宛に書き、俺は転生魔法を作動させる。
そんなことを知らないサタナキアはやはり魔王が心配になり、魔王の様子を見に来ていた。
「魔王様、大丈夫でしょうか。やはりこの私サタナキアが魔王の疲れている心を癒してさしあげねば!」
ドンっ
「魔王様!このサタナキア陛下のために何か出来ませんでしょうか!陛下のためならば、スライムのジュースなどあらゆる御馳走を御用意いたします!って...あれ?」
扉を勢いよく開けたサタナキアだったが、そこには魔王の姿がどこにもなく、一枚のメモ用紙のみが置かれているのみだった。
サタナキアへ
俺もう疲れちゃったから転生して新たな生活を過ごします。俺の代役はそこら辺のスライム捕まえて、魔王にしておいてね★
スライムジュースにするどころか魔王にしちゃううううう!?
というか、また魔王様は身勝手な⁉︎転生⁈1万回倒されて心身共に弱っておられるのはお察ししますが、職務放棄に走るとは!銀○の主人公でもそんな身勝手しませんよ!これは一大事だ…。
こうしてサタナキアは慌ててふためき、項垂れるのだった。
「魔王様ー!」
サタナキアが魔王のメモに気づく少し前に遡る。
新たな生活をするためにはどうしたものか…
人間の姿に化けて冒険者に混じる!とかはどうだろうか。いや、やはりそれはダメか。魔力が膨大過ぎて隠しきれない。では転生はどうだろうか。何処かの時代、何処かの国、何処かの種族に転生すれば魔王というステータスは無くなるのではないか⁉︎うむ、これは中々に良い手だ!それなら早速準備をせねばな!
ーー数分後
よし、準備も整ったし、そろそろ行くか。サタナキアにメモも残したし。
『転生魔法-Reincarnation』
転生か、楽しいだな。どのような生活が待ち受けているのだろうか。しかしスライムに魔王を託したのは少し反省せねばなるまいか?スライムが魔王に…
「待っていたぞ!我が宿敵の勇者よ!」
「魔王か!そうだ。我こそが勇者、貴様を葬る者!いくぞ魔王っ!はぁ!」
グサっ!!
「ふ、ふ、ふ。効かぬな、勇者よ。それが聖剣に名高いエクスカリバーか?我は無傷だがなっ!では次はこちらの番だ。スライムであり魔王である俺の力、とくと味わうが良い!はぁっ!」
うぬ、中々に強うそうだな…。というか俺よりも勇者と相性良いんじゃね?伝説のポ○モンよりもヌ○ニンみたいなのが強いのと一緒で。これならサタナキアも納得してくれるだろう。
じゃあな、この腐り切った世界、俺を嫌う世界よ。勇者が1万回も俺を倒したことは根に持たんこともないが、俺は新たに生まれ変わり、そして真っ当な生き方をしてやる!神よ!我は魔王だが、この1万回の破滅に報いを!
勇者が魔王を倒すように、魔王もそれなりに勇者に報いたいのだ。というか寧ろ関わりたくなくなっていた。誰もがどっかのヒーローみたいにワンパンで勝てたり、どっかのゴム人間みたいに諦めなければ負けないなんていうことはない。そんなことが出来ていたなら、もう少しこの魔王も頑張れていたのだろう。
そうして転生魔法は発動し、眩しい光と共に魔王の姿は一瞬にして消えてしまった。
だが魔王は知らない。魔王と勇者、この2人の関係は切っても切り離せないものだということを。
転生×2 虎視眈々 @SYLVEINE
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