第9話
悪天候で上小田井駅が使えない時には折り返し地点となる、対向式ホームを持つ駅・庄内緑地公園駅を通過し、いよいよ地上へ。藤枝達は緊張して、その時を待つ。
地上からの光が入り何も見えないほど眩しくなる。そんな一瞬のタイミングを衝いて銃撃が始まった。銃撃は車両の床下を狙っている。間もなく車両全体の駆動力が抜け、故障と判断されることで非常ブレーキが動作を始めた。上り坂ということも相まって、スピートの落ち方は激しい。次の一瞬、音響閃光弾(スタングレネード)が炸裂。それに合わせて先頭車両のガラスが簡単に割られ、SATが突入する。
「愛知県警です。武器を放棄し投降しなさい」
両手両足を押さえ込んだ状態で告げられては反抗することも出来ない。隊員によって体中を探られ、持っていた拳銃が回収される。合計二丁。
そこに藤枝達がやって来て、手錠を掛ける。
「刑法百二十五条の往来危険及び銃刀法違反の容疑で現行犯逮捕する」
そう告げ、手錠を掛けたのは藤枝。
「時間は、十三時四十分ね」
森岡が時計を見て、時間を取る。被疑者は、名古屋市交通局の制服を着ていた。
「詳しい話は後ほど聞くとして、あなたは職員なの?」
森岡の問いには無言。
「ATCまで解除するってことは、よほどこの車両に精通している。調べさせてもらったよ。日進工場の職員の中で、連絡が取れないのは一人だけだった。水主さん、でいいのかな」
「……そうだな」
犯人は一言だけ。
線路は出動した各機関でいっぱいになる。生化学兵器の拡散も想定し警察のNBC対策車や自衛隊の関係部隊も出動していたし、名古屋市消防局の救急隊をはじめ、名古屋第一赤十字病院などの救護班も多数編成されて活動を行っている。
「あまり目的が判らない事件だったわね」
森岡が呟く。
「鉄道ジャックなんてメリットが少ないことを、どうしてやったのか、確かに不思議だよ。機長が亡くなったあのハイジャックよろしく、欠陥を証明するための犯行? まさか、ね」
「今度公安に聞いてみたらいいかも」
「教えてくれる部署だとは思えないけど」
「副本部長を通せば大丈夫じゃない?」
「そうだね、今日聞いてみるか」
二人は庄内緑地公園駅まで歩き、まだ運転再開して間もない鶴舞線の、青いラインが入った車両へ乗った。
おわり
T1206K 愛知川香良洲/えちから @echigawakarasu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます