2019年版 恵方巻とオニとの関係
「第一に、貿易の自由化により海外から安価な農作物が大量に流入したことがあげられます」
白いTシャツにジーパンという、明らかに何かを意識した、若者とも中年ともいえない年齢の社員が、スクリーンの前に立ち、オーバーリアクションで話し始めた。
「これにより、わが社の高価な国産の製品の売り上げは大幅に減少しました。今から外国産の製品を投入したところで、大した利益は上がらないでしょう」
「第二に、社会の変化があります。現代の子供たちは、昔のような『正義の味方が悪者をこらしめる』というストーリーに魅力を感じなくなっています。また、食べ物を粗末にすることに対して、世間の目が厳しくなりました。ネット上での炎上を恐れ、公式イベントで行うことは難しくなってきていると言えるでしょう」
スクリーンに桃をもった男児のフリー素材が映し出され、左方向からクルクルと回転しながら飛んできた赤い×マークがその上で静止した。
「いじょ、あ、以上のような」
完全に忘れられていた、青い鳥のイラストを一瞬で消すと、社員は何もなかったかのように話に戻った。
「以上のような問題を踏まえ、従来の『豆まき』に代わるイベント、新たな製品の開発が必要と考えます。利益率が高く、攻撃性がなく、食べ物を粗末にしない。それは…」
すべての文字が消し去られ、社員は声を張り上げる。
「おすしです!」
一瞬の沈黙のあと、頭にサングラスを乗せた上司風の社員が、困惑したように口を開く。
「おすしは原価率が高いのでは?それに生ものは扱いが難し、おっと、反論は禁止だったね」
「生ものは使わなくていいのです。人間はおすしに対して特別な感情を抱いています。高価なネタを使わなくても、おすしであるというだけの理由で値段が高くても購入します」
プレゼンをしていた社員は、待っていましたと言うかのように、ドヤ顔でまくしたてる。
「おすしを食べるだけなら、誰も傷つけないし食べ物を無駄にすることもないので、炎上の心配もありません。単価も豆よりもはるかに高いです」
こうしてオニたちは、豆を売って悪役を演じるのをやめ、おすしを作り始めた。
新たな商売は盛況で、節分は正月に次いでごちそうが食べられる一大イベントへと成長した。
しかし、オニたちの会社が潤ったのも束の間、人間たちがおすしの大量生産を始めると、シェアの大半を奪われることとなった。
大手同士の販売競争は熾烈をきわめ、大量の売れ残りが廃棄処分されたり、店員がノルマに届かなかった分を自腹で購入したりして、社会問題となった。
「節分のおすしはオニが持ち込んだ野蛮な文化」
「オニはこの国の経済を乗っ取ろうとしている」
「今すぐ国内のオニを全員強制退去させろ」
節分のおすし問題を扱ったネットニュースのコメント欄には、無関係なオニに対する心無い書き込みが相次いだ。
「第二に、社会の変化があります。食べ物を粗末にすることに対して、世間の目が厳しくなりました」
社員はタブレット端末を片手に話した。
「以上のような問題を踏まえ、従来の『おすし』に代わる、新たな製品の開発が必要と考えます。それは…」
鬼は外、福は内。 鰐川にわ @wanisan17
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