おまけ 節分11日後の鬼と福のはなし

「課長、マジで鬼だよねえ」

意味もなく定時より少しだけ遅く退勤したわたしは、先輩の愚痴を聞きながらデパートを歩いている。


どうやら、うちの職場ではこの時期になるとの男たちに豆をまくのが習慣らしい。


「なんで鬼のために、わざわざお金をかけて豆をまくんですか?」

「そのうち福が来るかもしれないからでしょ」


職場の男たちは、新卒のわたしから見ても無能ばかりだが、福をもたらす特殊スキルもちであるために雇われ続けているのかもしれない。

そんなことを考えながら豆を選び、1000円(安売りの鶏むね肉に換算すると2.5キロ分。鶏むね肉のほうがよくない?筋肉つくし)を徴収され、この会社に入ったことを後悔した。



そんなこんなでいつもより少し遅く帰宅すると、同居する姉が珍しく台所に立っていたので、とりあえず写真をとった。


「なにしてんの?」

「かれぴにあげる豆つくってる」

「へー」


姉は月1くらいのペースでカレピ?なる男のことを鬼だと言って夜中騒いでいる。

そんな男のために、ふだん料理をまったくしない姉が、わざわざ手作りの豆をつくるとは。


「まあ、そういうもんじゃない?」

疑問をぶつけてみると、姉はあいまいに答えた。


「カレピ?に豆あげたら福が降ってくるの?」


先輩に言われたことを思い出してきいてみると、姉はあいまいな顔をして、

「まあ、ゼロではないけど、たぶんないかな」

と、またあいまいな返事をした。


どうやら福はあまり期待できるものではないらしい。

1000円の投資も、豆をつくる労力も、無駄になっているのかもしれない。


でも、みんなやはり金をかけたり台所を汚したりして、なんとか豆をまこうとする。

人間は豆をまかなければいきていけない生物なのだろう。


これ以上考える気にもならないので、わたしは冷蔵庫からチーズを出してきて、こたつの電源を入れた。


やっぱり豆よりチーズだ。

さっきの写真、お母さんに送ってあげよう。

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