オヤジと寿司

あがつま ゆい

第1話 オヤジと寿司

「タカシ、寿司を食いに行こうか」


大学の入学式の帰りにオヤジは言った。

家族で外食に行ったことはあるがオヤジと2人だけの時は初めてだった。

エキナカにある回転寿司屋の席につくとオヤジは昔を思い出しつつ語りだした。


「懐かしいなぁ。俺の大学の入学式の時にオヤジ、お前にとってはおじいちゃんだが、一緒に寿司屋に行ったことがあるんだよ。入学祝いでな」


オヤジはそういいながらマグロを食い、茶を飲む。


「オヤジ、過去ばっかり見てねえで未来を向けよ」


そんなオヤジを少し見下しながら、俺はあぶりサーモンを食っていた。

だいぶ大人になったもののまだ反抗期が完全には抜けてなかった俺は父親には反発ばかりしてた。子供の頃は怒鳴られながら育っただけに特に。


「タカシ、お前も分かるようになるさ。年を取ると昔が懐かしいってな。お前が産まれた時の事も、幼稚園に入園した時の事もよく覚えてる」

「俺にとっては昔なんてろくな思い出ねーけどな。オヤジは怒鳴ってばっかりだったじゃねーか。あ、すいません。あぶりサーモンもう一貫頼みます」

「まぁ、お前を立派な人間に育てたかったから少しきつく言い過ぎていたって言うのもあるな。まぁお前もいずれ分かるようになるさ。店主。マグロをもう一貫」

「なんか今日はずいぶん丸くねえか? まさか病気とかで余命宣告とかされてねーよな? やだぜそんなの」


子供の頃は俺の事を怒鳴ってばかりだったカミナリオヤジがその日は不気味なほど丸くなっていたこと、それとあの日限定で置いてあったクジラの寿司を食った(あまり美味いものではなかったが……)ことだけが今でも妙に覚えてる。


そして今。

大きくなった息子と一緒に大学の入学式に出た。その帰り、俺は言った。


「タケル、寿司を食いに行こうか」

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オヤジと寿司 あがつま ゆい @agatuma-yui

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