俺の寿司の食し方

小見川 悠

寿司をうまくする、たった一つの冴えたやり方


 俺は目を疑ったものさ。


 ――え? 何にだって?


 そりゃあんた。あんなもの見ちまったら、誰だって驚くと思うぜ。




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 俺は寿司が好きだ。どれくらい好きかと聞かれれば、朝には寿司、昼にも寿司、間におやつにでも寿司、しつこく夜にも寿司ってぐらい寿司が好きだ。


 あの赤くルビーのような光沢とにくにくしさを持ったマグロが好きだ。

 あの脂身たっぷりでつるんとしたサーモンが好きだ。

 あの独特のコリコリした食感を感じるイカが好きだ。

 寿司寿司寿司。ぜーんぶ寿司。

 みんな寿司、でも全部違う寿司。


 とにかく俺は寿司がすしだ。――いや間違えた。好きだ。


 プチプチ言うあのイクラ、もっちりとした酢飯のシャリ。

 寿司さえあればなんでもできる。

 その逆然り、寿司がなければ始まらぬ。


 それにしたって最高だよお寿司。

 醤油に浸してワサビをつけて食べるのがホント。


 ――え? 食べ方が汚い?


 あー確かに。今ならそう思う。でもな、ついこの前まで俺は、寿司の一番美味しい食べ方はこうだと思ってたんだ。


 だけど、俺はあの日、師匠に会った。



 俺はいつも通りに寿司を食べていると――横から怒鳴ってくるオッさんがいたんだ。

 最初は誰に怒っているかわからなかったけど、しばらくして俺ってわかった。


「いいか小僧。――寿司はこう食べるんじゃあ!!!」


 叫びながら寿司を箸で掴み取り、豪快に醤油の中へ――!


 しかし、醤油は寿司に掠る程度。醤油が付いているかいないか、一目では判別できないぐらい少量の醤油。


「そしてワサビもこうじゃあ!!」


 風をきるほど俊敏な動作。一切の無駄なくワサビを箸にとって寿司へと乗っける――ほんのちょっとだけ。


「おいオッさん! これじゃ寿司がまずいじゃ――ゲボォ!?」


 言い終わるより先に、俺の頬はオッさんから繰り出されたパンチで吹き飛ぶ。


「よく聞け小僧! 寿司に必要なのは醤油でも、ワサビでもない――心じゃぁ!!」

「こ、心――?」

「そう! 無闇矢鱈につければいいわけではない。『少量美味』それが寿司の真髄じゃ!」


 俺は頭に雷が落ちたかのような衝撃を受けたね。生まれてから今までの価値観を全て塗り替えられたような――そんな衝撃さ。


 そうして俺はオッさんに弟子入りして、寿司教なる新しい寿司神を語り継ぐ宗教へ入信したのさ。


 ――ん? オッさんは何者かって?


 ハハ、何者でもないさ。偉大なる寿司教の伝道師にして師匠――寿司王スシマスターの名を欲しいままにした男さ。

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俺の寿司の食し方 小見川 悠 @tunogami-has

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