それはそれとしてくっころがおふざけ小説だとみてもわからん人がおるらしい(各エピソードタイトルを見るんだ)
「…くっ……」
―――ああ。死にたくないな。
女人馬は思う。
だがもはやそれは避けられない運命だった。ここに傷を癒せる術者はいない。高位の神官でもいれば話は別だが、女人馬を救うことはできないのだ。
だが、戦う術はある。今ここにいる草小人の。吟遊詩人の力を借りることができれば。
草小人は、親から独立すると旅に出る。怪我か病か、老いか。いずれかが行く手を阻むまでそれは続いた。魔法使いであろうとも例外ではない。
だから、吟遊詩人も旅を続けていた。その過程で身に着けたわざは磨かれ、今、披露
されようとしている。
大丈夫。彼女ならやってくれるだろう。魔法使いとして、彼女の力量は散々目の当たりにした。何とかなるはずである。
力を失った女体を前に、朗々たる呪句が響き渡った。それは墓所という環境と玄室に渦巻く呪力を糧に、膨れ上がって行く。
吟遊詩人と、視線が合う。
「……殺せ」
彼女は頷き、そして手にした刃を振り下ろした。
女人馬の首へと。
◇
女賢者は疾走した。その背後を追ってくるのは、屋敷ほどもあるかと思える巨体である。その手に捕らえられればたちまち握り潰されるであろう。
真横を抜けた直後、粉々となる石柱。薙ぎ払われる彫刻。棺が叩き潰される。前方に壁。
激突する寸前、横っ飛びに回避。
そこへ、巨大な
壁へめり込んだ
女賢者は、敵を放置して走る。狙うは術者。
あと20歩。ふりかえる。
残り10歩。背後より足音。大丈夫。間に合う。
5歩の距離。ローブの
思考する暇もなく、間合いが詰まった。剣を振り下ろす。
敵手の姿が掻き消える。
力が籠められる。全身の肉が断裂する。骨が砕け散る。剣を取り落とす。身に着けた装飾品が零れ落ちていく。
ぐちゃり、という嫌な音と共に、女賢者の体は、砕けた。
◇
―――倒したか。
柱の影より、
「ほう。驚いた。まだ生きているとは」
褐色の肌の女は、驚くべきことにまだ生きていた。生半可な不死の怪物であれば既に死しているはずだが。凄まじい耐久力である。最も、胴体を握り潰されて何ができるとは思えぬが。
この段階で、ようやく
そうと分かれば女を始末し、残った者どもも殺してやろう。そうして、大願を成就するのだ。
「さあ。女の頭を潰し、とどめを刺せ。それが終わったら、他の者どももだ」
◇
女賢者は、死を覚悟した。急所である頭を失えば、女賢者は真に死す。もう首から下は破壊されてしまった。逃れる術はない。
だから、今の己にできることは敵の顔を睨みつけることだけ。
死者の顔。闇の魔法に手を出し、歪んだ魂を持った邪悪なる魔法使いのなれの果て。
女賢者は、その優れた観察力で、全てを見ていた。だから、その瞬間までもを目の当たりにすることができたのである。
強烈な抜き手が、
それを成し遂げたのは、忍び寄っていた女。馬の下半身を備えた彼女に、女賢者は確かに見覚えがあった。
女人馬。つい先ほどまで瀕死の重傷を負っていたはずの彼女にはしかし、傷がひとつしか見当たらない。
そう。さきほどまではなかった新たな傷。首の切断面を除いて、一切の負傷が消えていたのである。
彼女が既に生きてはいないのは明白であった。
ランプが落下する。持ち主が崩れ落ち、呆然と呟いた。
「馬鹿な……」
それが、
同時に女賢者を捕らえていた巨腕が崩れていく。かと思えばそれは全身に波及し、そしてランプの口へと吸いこまれていった。術者を失ったことで形を維持できなくなったのである。
落下した女賢者を、首のない女人馬は抱き上げた。
何が起きたかは一目瞭然であった。女人馬は黄泉還ったのだ。吟遊詩人が魔法を執り行ったのであろう。
女賢者を抱きしめる両腕は、冷たかった。
その冷たさに、女賢者は泣いた。
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