Twitterでくっころについて呟きが通報されたので凍結されました!!(題名の「殺」が引っかかった模様)

───思わぬ邪魔が入った。

不死なる王リッチの率直な見解である。このぶんならば例の女。褐色の肌の死にぞこないアンデッドもいるだろう。あれは厄介だ。

配下へと命じる。

「さあ。そやつも殺せ」

死者たちが包囲網を狭めている。女たちに逃げる隙間などない。いかに敏捷な草小人と言えども逃げきれぬ。必殺の包囲網が完成し、一斉に武器が振り上げられた。


  ◇


吟遊詩人たちに刃が振り下ろされる。

まさしくその瞬間、奇怪なことが起こった。

まず、床の1点が揺らめいた。いや、天上近くで灯ったままの鬼火ウィル・オー・ウィスプの光。それを反射し始めたのだ。

次いで、光の反射は広がった。まるで鏡面のようなそれは、生者たちを包囲していた闇の軍勢の足元、直径二十五メートルもの大きさとなると、その役目を果たし始めたのである。

次元の門ディメンジョン・ゲートとしての機能を。

広がった鏡面の上にいた者たちが呑み込まれた。まるで水没していくかのようにほとんどの死者が消えるのと同時。

鏡面より飛び出して来た者がいた。

彼女は宙に飛びあがると、自然の法則そのままに床へと落下。両の足が地面に付く以前に、鏡面は消滅していた。

フードとヴェールで顔を隠し、剣を帯び、褐色の肌と豊かな肉体を備えた彼女は女賢者。仲間たちの救援へと駆けつけたのである。

背後で負傷した仲間たちを一瞥すると、女賢者は無言のまま抜刀。死者の王リッチへと向かっていった。


  ◇


強烈な一撃が、振り下ろされた。

不死なる王リッチは虚空より杖をと、振り下ろされた剣を受け止める。ただの剣。鋼で出来たそれにはしかし、強烈な魔力付与ファイア・ウェポンの秘術が与えられている。すなわち死者を殺しうる力を持つのだ。膂力は相手が上である。立て続けの攻撃をなんとか凌ぎ、不死なる王リッチは後退した。術を用いる暇がない!

敵手たる女はやはり高位の死にぞこないアンデッドなのであろう。剣の腕はさほどでないのが救いだが、恐ろしく高位の魔法使いでもある。術比べでも有利とはいくまい。次元の門ディメンジョン・ゲートは異なる二点間を繋ぎ、距離を無とする門を創造する秘術である。その気になれば軍勢すら自在に送り込めるこの魔法の使い手は数少なかった。すなわち女は最高位の魔法使いと言ってよかろう。移動させられた死者たちが戻ってくる望みは薄い。壁の中にでも送り込まれた可能性が高かった。

それは、不死なる王リッチ自身の力で何とかせねばならぬ、ということである。

彼はそうした。

裂帛の気合と共に叩きつけた霊魂の拳アストラル・フィストは敵手を打ちのめし、引きずられた肉体ごと後退させる。片手でまだ持っていたランプを抱える。

―――こうなっては止むを得まい。

杖を投げ捨てた死者の王リッチ

彼は、ランプを力強くこすった。


  ◇


「くっ……!」

「―――む、無理だって!」

起き上がろうとする女人馬を押しとどめながら、吟遊詩人は叫んだ。彼女を引っ張って物陰に隠れたいところだが、人馬ケンタウロスは草小人には重すぎる。女賢者は敵と刃を交えるので精一杯。となれば、自分でどうにかするしかないわけだが。

症状悪化を避けるため、女人馬を仮死状態にする術に取り掛かった吟遊詩人。

その手を、女人馬は掴んで止めた。

「……駄目……だ。助け…あちらを……」

「あれに割って入れって?無理無理!死んじゃうって!」

「…どうせ、助からん……」

言われて、吟遊詩人は息を飲んだ。確かにそうだ。女人馬の傷は奇跡でも起きぬ限り、確実な死という結果に収束するであろう。

助かる手段はない。

「…ら……力を貸せ……」

熱に浮かされたような言葉。それをただ、吟遊詩人は頷き返すより他なかった。

「……頼む」

項垂れた女人馬。彼女の願いに応えるべく、吟遊詩人は刃を構えた。


  ◇


女賢者は、背後へと飛び下がった。敵へと踏み込めなかったからである。

それが、彼女を救った。

不死なる王リッチが構えたランプ。それが鳴動した。

かたかた、とゆれたそれは、先端の口から煙を吹きだし始めた。いや、煙?

それは砂であった。恐ろしく細かい粒が噴出し、ランプを中心として渦巻き、そして。

爆発した。

まるで嵐のような奔流の中、それは集まり、形を成していく。

哄笑が響き渡った。しわがれた声。不死なる王リッチの笑い声が聞こえてくる中、砂は勢いを失い、代わりより濃密に。理解できる形へと、収束していく。

それは、影だった。人型に立ちはだかる砂嵐。そこに投影された、顔のない影。

広大な玄室内の天井につっかえそうなそいつの身長は、10メートル近くもある。

「―――さあ!そやつらを殺せ!!そして、我が望みを成就させるのだ!!」

不死なる王リッチの声が響き渡った。

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