働いてる働いてる(何らかの力当人の発言)
―――これで何度目だろう。
女賢者は、胴体と生き別れた生首を凝視しながら思った。
死なないのは便利だが、こうも首に被害が集中すると何らかの力が働いているのではないかと疑ってしまう。恐らく実際には偶然なのだろうが。
気を取り直した彼女は、横で呆然としている草小人を放置し、魔法で縛り上げた
こいつを尋問しなければ。貴重な手がかりである。
決心すると、女賢者は仕事に取り掛かった。
◇
「ちょ、ちょっと待ってよー!」
先行する女たちを追いかけているのは吟遊詩人。
「―――どうしてついてくる」
女たちの一人が振り返り、訪ねてきた。黒髪に遊牧民風、槍を手にした人物である。
吟遊詩人は答えた。
「えー?だってそりゃあ、いい歌が作れそうだもの。あんたたち凄いよ!あの距離で槍を当てたり首を刎ねられても生きてるんだもん!」
「……ぅ…」
褐色の女―――刎ねられた首を抱えたまま―――が渋面を作った。
私は生きているわけではありません、と訂正する。
「うん。首が繋がってる
吟遊詩人は己の不覚を反省した。まさか
「…どこまで来る気だ?」
「うん?飽きるまで!!」
屈託のない笑顔で答える草小人に、遊牧民の女は渋面。やがて諦めたか、彼女は投槍に行った。
「勝手にしろ。だが私たちの邪魔だけはするな」
「勝手にする!!」
こうして、女ふたりの一行は一人増えた。
◇
「やれやれ。妙な事になったな」
「…ぉ……」
野営の準備を始めた女人馬は、増えた同行者に目をやりながらつぶやいた。女賢者もそれに苦笑しつつ同意する。
野営と言っても低木の下に人ひとり横になれる程度の天幕を張るだけだが。
ふたりが
まあ草小人という余計な荷物がくっついてきたのは想定外だったが。どうも危険な冒険心に取りつかれてこんな危険な荒野を旅していたようだ。草小人は恐怖と疎遠である。常人ならば足踏みするような場所へも彼らは立ちいった。
傍では、干し肉を火であぶっている草小人の吟遊詩人の姿。あれと乳製品、水袋の中身が今日の晩餐の全てである。
「はい。どうぞ」
女人馬へと干し肉を手渡すと、自分のぶんをむしゃむしゃと食べ始める吟遊詩人。
その様子を、女賢者はうらやましそうに眺めた。もうずいぶんと長い間、飲食していない。
やがてよっこいしょ、と立ち上がった女賢者は、自分も眠る準備をするべく服を脱ぎ始めた。太陽が顔を出す前に墓穴を掘らねばならない。
作業を開始してしばらくして。今日の寝床が完成したころ。
後方で、琴を奏でる音。
振り返ってみれば、吟遊詩人が馬頭琴を奏でているのだった。続いて上がる歌声にこもった霊力は、女賢者の魂を揺さぶる。
音楽とは魔法である。聞いた者の心に響く霊力を備えたそれは、女賢者に安らぎを与え、そして眠りへと誘った。
陽光が差し込む中、一行は眠りに就いた。
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