第七話 復讐者たち
台風のせいか腰が痛い(おのれ低気圧)
―――GuRuRuRu……
騒々しい夜だった。
せわしなく動き回る闇の怪物ども。彼らの探し求める相手は、隠れ場所で縮こまっていた。
―――死ぬ。これはやばい。今度こそ死ぬ。
小柄な人物だった。子供ほどの身長に、フードつきマントのように仕立てた毛皮を鎧代わりに羽織り、腰に下げている手斧は骨でできている。背負っているのは馬頭琴。馬の骨格から作られた楽器である。装備とそして素足であることから、典型的な草小人であることが伺い知れた。驚異的なすばしっこさを持つ、人の類の一種族。旅の
術の効力が切れるまで粘るしかない。そこまで持たせれば魔法が使えるようになる。彼女が発する一切の音も消えているのが不幸中の幸いである。もうしばらく頑張る事もできよう。
そのはずであったが。
がさがさ。
必死で枝にしがみついている彼女の眼前ににゅっ、と顔を出したのは、一匹のヤマネコ。どうやら同じ木で眠っていたらしいそいつは騒ぎで目を覚ましたのだろうか。しゃー、と威嚇してくる。
しっしっ、と追い払おうとする吟遊詩人であったが、もちろん獣がそんな彼女の事情を斟酌してくれるはずもなく。
―――GOO?
あ。なんか
明らかになにやら危ない状況である。と、そこへヤマネコが猫ぱんち。爪は痛い。やめて。顔に傷が。
吟遊詩人が我慢している間にも、
だから吟遊詩人は、ヤマネコを追い払うべく動いた。腕を伸ばしたのだ。
それがいけなかった。
べきべきべき。
吟遊詩人の体重を支えていた枝葉、度重なる暴虐に耐えかねてとうとう限界を超えた。ぼっきりとへし折れて行く。
猫並みの身軽さを吟遊詩人が備えていなければ、頭から落下していただろう。
辛うじて楽器を守りながら宅地した彼女。されどそのせいで、したたかに腰を打ち付ける。いたた。
そこで、目が合った。吟遊詩人と
―――GUUUUUUURRRRUUUUUUOOOOOOOOOOOOOO!!
叫ぶ
慌てて逃げ出そうとした彼女だったが、先ほど打ち付けた腰が邪魔をした。痛い。腰砕けになる。そこへ
振り下ろされる棍棒に、彼女は目を閉じる。
「……?」
あれ?
たっぷり心臓が五回は動くだけの時間を経ても何ともないのを怪訝に思った吟遊詩人は、うっすらと目を開ける。
最初に目にした光景に、彼女は度肝を抜かれる事となった。
どう、と倒れていく闇の種族。
槍が来たのであろう方向を向いた吟遊詩人は、再度度肝を抜かれる光景を目の当たりにした。
何百メートルも向こう。豆粒のように小さな人影が目に入った。槍を投じたのが彼女であるとするならば、それはどれほどの剛腕なのか。この距離で槍を投じるとは!
と、わいわいがやがや。そちらへと振り向いてみれば、十数という
痛む腰に鞭打ち、何とか立ち上がる吟遊詩人。あの槍を投じた人物の方へと走る。駄目だ。何百メートルの距離が遠い。敵勢に追いつかれる方が早かろう。
その時だった。
突如。眼前に脈絡なく、人影が現れた。
ヴェールとフードで顔を隠した、恐らく女。かすかに覗いている目元から、肌の色は褐色であろう。―――どこから出てきた!?
分からなかったが、女はこちらを一瞥すると頷き、そして敵勢へと視線を向ける。敵ではない。そう察した吟遊詩人はだから、分からないままその横を駆け抜け、そして。
―――GGGGGYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAA!?
響き渡る苦鳴に、思わず振り返った。
そこに出現したのは叙事詩に謳われるような光景。抜刀した女が振るう刃とともに舞い散る血は、信じがたいほど美しい弧を描いた。一撃は確実に一匹の生命を奪い、反撃の棍棒や木槍はするりとかわされあるいは。
静止した。
目を疑うような光景。魔法か?あんな防御の魔法があると吟遊詩人は知らなかった。強いて言うならば死者が死なぬのに似ているが、しかし女は生者に見える。一体!?
たちまちのうちに
最大の驚愕は、この後に来た。
女の背後から、その頸に絡みついた
呆然とする吟遊詩人の目の前で、女の首なし死体は敵へと向き直り、そして呪句を唱え印を切った。発動した
何が何やら、もう訳が分からぬ。
彼女は、吟遊詩人へそれを向けると、にっこりとほほ笑んだ。
吟遊詩人は、ひとまず生き延びたことを悟った。
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