くっころは地球じゃないので割とごちゃまぜです(どうでもいいが街にはいるだけで冒険やな)

広大な都だった。

幾度も増築を繰り返した城壁に守られた市街地は、直線の街路に沿って築かれている。中央に壮麗なる宮殿がそびえ、その周囲にはレリーフを刻み込んだ巨大な柱を持つ神殿が幾つも並んでいた。その繁栄を支えているのは、河。

とてつもなく巨大なそれは、大陸中央に流れているという大河にも匹敵する。緩やかな流れに乗って、石材を積んだ筏や帆を張った船が行き交っていた。年に1度、数か月も氾濫するというこの河は上流より肥沃な土を農地に運び、豊かな実りを約束していたのである。そして、土地を水が飲み込むが故に、この地では早くから測量の技術が発展してもいた。氾濫した水が引いた後、農地の所有者を再確認せねばならぬからである。数を司る神でもある星神と、水の王たる水神。そしてこの地を強く照り付ける太陽神への信仰がこの地では特に篤い。

今。この地を訪れる者たちの姿があった。


  ◇


月のない夜だった。

葦の生い茂る川縁は波一つ立てず、驚くほど静寂に満ちている。時折飛び跳ねる水生生物の水音だけが静謐を破った。

いつまでも続くだろう。そう思われた世界は突如、終わりを迎えた。

眠りにつく世界を思ってだろうか。密やかに水中よりまず出てきたのは、黒。

ゆっくりと川岸にあがりつつあるそれは、びしょぬれの髪だった。続いて褐色の額。理知目気な瞳。鼻筋だった顔立ち。肉感的な裸身が、露わとなる。

一糸まとわぬ女体。女賢者であった。死者である彼女は呼吸を必要としない。川底を歩いて来たのだった。

上半身を水中から出し、周囲を見回す彼女。

「こっちこっち」

振り向いた女賢者の視線の先には、小柄な人影がいた。密集した葦の中に隠れているのは吟遊詩人である。

頷いた女賢者は、水中に手を伸ばすとを引っ張り出した。美しい、もう一つの女体。生命の息吹が感じられぬ女人馬を。

よっこいしょ、と女賢者は相方のを担ぎ上げ、吟遊詩人の方へと進む。最も女人馬は死んでいるわけではない。魔法で仮死状態になっているだけだ。吟遊詩人の仕事である。

素早く草むらに隠れた一同。ひとまず死んでいる女人馬の胸に吟遊詩人が手を当てると、げほっ、げほっ、とせき込みながら生き返った。

自らの術の出来映えに、吟遊詩人はにんまり。

「言ったでしょ。役に立つ、って」

対する女賢者は、困った顔をした。


  ◇


「死ぬかと思った」

むすっとした顔で粥をかき込んでいるのは、服を着込んだ女人馬。対面に座った女賢者たちは苦笑する。

そこは、市だった。日干し煉瓦の家屋が建ち並ぶ市街地。日除けの天幕が何重にも広げられ、買い出しに出てきた人々が行き交う早朝である。

神殿の力が強い大都市は、決まって姿を偽る者は入れない。祝福された門の結界によって術を暴かれるのである。一行がわざわざ水中から都に入ったのもそれが原因であった。女人馬にかかった他者変身ポリモルフは姿を偽る目的でかけられたものではないが、結界はそんな事情を斟酌してくれない。故に吟遊詩人の術で女人馬を仮死状態にして、女賢者が運んだのである。両者の衣類も吟遊詩人が運んだ。まぁ吟遊詩人がいなければ瞬間移動テレポートしただけなのだか。

周囲をみると、まだ陽光が地平線から溢れ出したばかりだというのに多くの男たちが行き交っている。独り身の労働者たちは、こうして朝の市で腹を満たしてから仕事に行くのである。

「で。これからどうするわけ?」

吟遊詩人の問いに、女たちは顔を見合わせる。この都市に敵がいることは分かっているが、そこから先は足で探すより他ない。

「宛がないならまあ、任せといてよ」

草小人の吟遊詩人は、体格に似合わぬ態度で宣言した。

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