ふと気付いたが葬儀に関しての設定ってめちゃくちゃ多い部類ではないのかくっころ(主人公が日常的に埋葬されるからな……)

遊牧民は、死者を風葬あるいは鳥葬にする。すなわち霊を弔った後、遺体を朽ちるに任せるのである。屍肉をついばむ鳥は魂を運ぶいきものとして神聖視されていた。

とはいえ土葬にするときもある。この場合、墓は大変に重きを置かれる場所であり滅多に人が訪れることはなかった。来るとしても死者が埋葬されて数年後などである。埋葬場所は一族以外には知られることはまずないから、部外者が目にする機会も滅多にない。

今。女賢者は、そのような墓地へと足を踏み入れていた。

星々が照らす大地を通り抜けていく風は冷たい。柔らかな足元は草に覆われ、広い空間を空けて並んでいる墓はいずれも、南向きに建てられていた。恐らく太陽に向けたのであろうことが察せられる。

その先を往くのは族長の男と女人馬である。彼らに連れられて進んだ果て。

こんもりと盛り上がった、小さな土山の前で、一行は止まった。

「ここで仕事をしてもらう」

女人馬は、女賢者へと告げた。


  ◇


土山―――古代の墳墓の中は存外に広かった。人馬ケンタウロスでもなんとかなるだろう。石を積んで補強されているように見えた。地面を掘り抜いて通路を作り、その上から土をかぶせて地下構造にしたのかもしれない。

内部はまるで迷路。長さがどれほどに及ぶのだろうか想像もつかない。更に下層の構造もありそうだ。

「ここは一度破られたからね。防御の魔法をかけてもらいたい」

先を進む族長が告げた。彼の手にあるのは灯心を差し込んだ陶器のランプ。片手で持てる大きさである。例の部族の宝であるというランプは持ってきていない。ここの防備を固め直してから安置するつもりなのだ、と彼は語った。

女賢者も頷き、返事を返す。今の彼女は人間の姿をしたままだが、生首はに取られたままだった。族長も魔法使いらしく、女賢者が死者であると知っても大して驚きはしなかった。女人馬が袋から取り出した生首を見ても驚かなかったのである。むしろいいを得たと喜んでいる始末だった。人の類同士の争いで破れ、虜囚となった者は賠償金の支払いで自由になれるという習わしである。あるいは労役。女賢者に期待されているのはそちらであろう。人間ではない女賢者はに課せられる可能性もあるが。

中を進むと、時折バラバラになった白骨や土の塊、奇怪な生物の死骸などが転がっている。この墳墓の守護者ガーディアンだったものに違いない。

内部を一通り案内した族長は、女賢者へと尋ねた。

「さて。君ならどのように守る?」

聞かれた女賢者は思案すると、持ってきていた背負い袋から幾つかの呪物を取り出した。とはいっても事前に調達しておいた単なる家畜の骨である。

それを床に並べ、呪句と印で万物に宿る諸霊へ助力を求めると、骨がむくむくと膨れ上がり始めた。かと思えばそいつはやがて奇怪な獣の骸骨へと変わる。

羊の頭蓋骨を持ったそいつの名は骨の従者ボーン・サーヴァント。死霊魔術で生み出される骸骨兵とは異なり、一種の魔法生物だった。魂は持たず融通は利かぬが意外と知能は高い。永遠の生命を持つため、守護者ガーディアンの類にはうってつけだった。

もっと高等な呪物、例えば竜の牙があれば竜牙兵ドラゴントゥースウォリアーなども作れるが、女賢者には手持ちがない。後は粘土をこねて土人形ゴゥレムを作るなどか。要所要所に警戒や罠の魔法をかけたり、宝箱などに擬態した偽装者イミテーターを設置してもよかろう。どちらにせよ一日仕事では終わらないはずだった。

「時間はかかってもよい。仕上げてくれれば褒美を出そう」

そうと言われればやるしかない女賢者であった。

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