荒野というとモヒカンを連想する私は世紀末に毒されている(救世主の代わりにデュラハン)

砂漠と一口に言っても様々である。砂で覆われた砂漠、というのは少数派であり、実査には荒れ果てた荒野というパターンが極めて多い。そして、荒野にも様々な種類があった。一般に遊牧民が暮らす地域は砂漠、というよりは草原である。寒暖差が激しくわずかな雨のみが降るなのだ。砂漠と草原の中間と言ってもよかろう。

砂漠の遊牧民の勢力は大きい。人間や人馬ケンタウロス族など様々な部族が乱立しているが、種族に関わらず一人一人が恐るべき戦士でもある。その力は闇の勢力との闘いでも大きな助けとなった。環境に適応した家畜を連れ、全財産とともに家族単位で移動する彼らは補給を必要としない最強の軍隊である。いざとなれば、長を中心として死を恐れず戦うのが常だった。

今。この領域へと足を踏み入れる一隊があった。


  ◇


―――はてさて。どうなることやら。

女賢者は、周囲を見回しながら思った。夜の行軍が終わりに差し掛かろうとしている。羊の群れが幾つも固まって眠っており、その近くには羊毛のフェルトで作られた大きなテントが見受けられる。内側に骨格を織り込んだ円筒形の構造である。天井は煙を逃がすためであろう構造もあった。遊牧民の移動住居ユルトなのだろう。

遊牧民は通常1家族が1つの移動住居ユルトに住まうのを1単位として、数家族ごとでまとまるのが一般的である。されど勢力の大きい族長などは十数から、時に数百もの家族を引き連れ、大変に大きい移動住居ユルトに住まうことで知られている。ここはそこまでではないようだが。

一行は、それらの合間を抜けながら進む。やがて見えたのは、ひときわ大きなテント。

先頭の女人馬は、停止を命じた。

馬より降りた男たちが散っていく中、女人馬は移動住居ユルトへと入っていく。

「父上。帰参致しました」

そう告げて先行した女人馬に続き、女賢者も物珍しそうに移動住居ユルトへと入った。彼女の知識が正しければ西、入って左側が男性。東、右側が女性のための居住空間のはずである。奥にあるのは神々と祖霊を祀る祭壇であろう。中央にある鉄のストーブが財力を誇示している。大型の住居故だろうか、衝立で内部がいくつかに区切られているようにも見えた。

果たして。待ち構えていたのは、髭を蓄えた身なりの良い、人間族の男。温和そうだが、状況からすれば彼が族長なのだろう。

「うん。よくぞ戻った。勤めを果たしたようだな」

「はい。裏切り者を斃し、ランプを奪還いたしました」

「よろしい。

それで、そちらの御仁は?」

女賢者は会釈。

問われた女人馬も頷くと、口を開いた。

「実は道中、色々ありまして。話すと少々長くなります」

「分かった。腰を下ろし、ゆっくりと聞かせてもらおう」

一同がストーブを囲んで座ると、女人馬は事の顛末を語り出した。

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