終わったと思った?私も思ってました(例によってアドリブです)

ひと悶着あった。

魔法使いの少女を倒したとたん、妖霊ジンは解き放たれた。術者を失った彼は、高笑いをしながら空の彼方へと消えていったのである。魔法語で「これで我は自由だ!!」と叫びながら。だからそちらへの対処は問題なかったのだが、それより重大なのは女人馬とそして女賢者である。何しろ街中で大暴れしたのだ。殺した相手が魔法使いだったからそこは問題とはならなかったが(彼らは慣例上法に保護されない。例外は多々あるが)宿は吹き飛び、あれほどの騒ぎとなったのである。両名が一時拘束されたのもやむを得なかったであろう。

女人馬が他者変身ポリモルフを解いて元の姿に戻り、身分を明かしてから少々風向きが変わった。彼女の部族は近隣でもかなりの大勢力を誇り、さらには、女人馬はその族長の一族である。街を治める神殿の長と面識があったのだ。最終的に破壊してしまった宿と民家の持ち主。そして街を治める神殿へと家畜を贖う、という事で話はついた。証文が交わされ、ふたりは解放。追いついてきた女人馬の部下たちと共に街を出た。


  ◇


―――ひどい目にあった。

女賢者はをついた。帰路に就いた女人馬たちに随伴するという形である。男たちの馬に同乗させてもらえているだけ待遇はマシではあるが。どうやら解放はしてもらえぬらしい。それはそうだろう。己は高位の死にぞこないアンデッドである。魔法使いである女人馬がそうそう手放すとは思えなかった。まあ道中、荷物は回収させてくれるらしいが。

取り戻したランプは女人馬が馬の胴体に括り付けている。女賢者の生首と共に。

仕方あるまい。しばらくは彼女に使役されるのも悪くはないかもしれない。この機会に、遊牧民の暮らしぶりを間近で観察させてもらうとしよう。

自分を納得させた女賢者は、精神的疲労でぼおっとなりながらも到着を待った。


  ◇


深い。深い、闇の中であった。

した魔法使いの少女。いや、その霊魂は、魔法の壺マジック・ジャーの中で安堵のため息をついた。

危なかった。あのままでは肉体と運命を共にする所であった。咄嗟にこの魔法の壺マジック・ジャーへと戻ったから死は免れたが。

彼女の魔法の壺マジック・ジャーは、台座に安置された水晶球の形をしている。それは魂の器であり、足場でもあった。この中に己の霊魂を移し替え、そこから他人の肉体へと乗り移ることができるのだ。乗り移られた者の霊魂は入れ替わりに水晶球へと移され、封じ込められる。哀れな犠牲者の霊魂は、つい今の今まで閉じ込められていたのだ。術者以外この水晶球を自由に出入りはできぬ。他者の肉体を奪う。それが、魔法の壺マジック・ジャーの秘術であった。最も、器とした器物のすぐそばにいる、無抵抗な肉体しか奪うことができぬ。水晶球を失えば元の体へ帰還する術を失う事にもなるから、肉体の調達には慎重にならざるを得なかった。さもなくば、あの部族の要人。ランプに近づける者の肉体を乗っ取れば事足りたのだが。

まああの少女の肉体は大変に役立ってくれた。死の瞬間自分の肉体へと戻された彼女はどのように感じたかは分からぬが。

傍らの玉座に腰掛ける、己の肉体を見上げる。魂の抜けている間、仮死状態となっていた体。

彼女は。邪悪なる魔法使いの霊魂は本来の肉体へと戻ると、重い腰を上げた。

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