第四話 地下運河の怪
砂漠地方の集落なんて義務教育で習って以来だよ(うろ覚えマン)
砂漠で水は貴重である。しかし水がなければ生きることはできぬ。人の類だけではなく、あらゆる生物が。
だから、砂漠地帯にある集落は何らかの手段で水を得ていた。オアシスを囲むように交易の中継地ができる場合もあれば、この村のように
ここは
その一角。日干し煉瓦で作られた家屋は密集しており、それ自体が外敵を阻止する構造を備えていた。家々の扉や窓は小さく熱の出入りが阻止される仕組み。砂漠の極端な温度変化に備えたものであり、街路の狭さやアーチ状の構造も同様である。建材の日干し煉瓦は砂漠地帯ではありふれたもので、いくらでも容易に作ることができるために2階建ての家屋も多数見られた。
外と内を隔てる門も、それら外周の家屋の合間に設けられたものである。強固なそれはちょっとした籠城にも耐えられるであろう。人間を拒絶する砂漠の危険に対抗するための知恵だった。
今。
ひとりの死者が、この村落の門を抜けようとしていた。
◇
夕日が沈む。そのほんの少しだけ前に、村の門をくぐった女の姿があった。
フードを被り、ヴェールで口元を覆った彼女は女賢者である。
まもなく夜。陽光で著しい不快感を感じる女賢者だったが、夜になってしまえば村に入るのは困難である。やむを得ない。
夕日を一瞥した彼女は、背後で閉まりつつある門を後にした。
◇
日が落ちかかっていたにも関わらず、村の広場には人が集まっていた。日よけのアーチがかかった小さな空間には、旅の魔法使いが訪れていたからである。魔法使いはどこでも歓迎された。人々は魔法の助けを必要としていたから。
女は村人たちの求めに応え、護符を手渡し、呪いの図形を家々の壁に描いた。失せものを探し、占いをし、また旅してきた異国の話をした。代価に要求したのは布や鉄。陶器の器。塩。皮などの物資に、一夜の宿として霊廟を提供すること。
村人たちは奇妙に思いつつも、魔法使いならそういう事もあるだろう、と納得していた。ただ、食料や飲料水を要求しなかったのには大変不思議そうな顔をしていたが。
そうこうしているうちに、夜が訪れ、人々は家路に就いた。
◇
「…………」
ため息をつくと、女賢者はようやく座り込んだ。
そこは月明かりが差し込む村の霊廟である。やはり日干し煉瓦で作られ、死者の魂たちが静かに眠っていた。
彼ら同様死者である女賢者にとっても心地よい。いい加減砂の下で眠る日々はうんざりしていたのだ。ここならばまだ文明的である。もっとも、村に立ち寄ったのはそれだけが目的ではないが。物資の補給の他、この地の情報。このあたり一帯の民話や伝承。そういったものを収集するのも目的だった。知識の探求のためにこそ、女賢者は旅をしているのだから。
数日はここに滞在することとなろう。それはすなわちしばしの間、昼夜逆転した生活を送る、という事でもある。昼間に活動せざるを得まい。英気を養うべくしっかり休息を取らねば。
窓の外に目をやる。
人家のはずれに位置するここからは、耕作地。そして
ご苦労なことだ、と思いつつ。床に布を敷くと、女賢者は眠りに就いた。
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