Windowsは自動更新で原稿を消滅させた罪を償うといいよ(さあお前の罪を数えろ)

結論から言うと、死ななかった。いや一名ほど死んでいるが元々である。

「……ぅーぁー…ひっど」

全身木の葉まみれになりながらも、長椅子の娘は身を起こした。

そこは樹上。上空より落下した彼女は、またもや樹木の枝葉に受け止められては生き延びたのである。全身細かい傷だらけだがこの際贅沢を言うつもりはない。

体の上を見る。

そこに乗っかっているのは妹であった。娘はとっさに彼女を庇ったのだ。

が。

「……ひらたい」

胸にへばりついての、妹の感想である。

「やかましい。どうせあんたのお師匠様ほどはないわよ」

横では、女武者も兄の方を担ぎ上げ、こちらを。首がないのを除けば蠱惑的と言っても良い肢体。娘は内心唸らざるを得ない。

「あー。とりあえず降りましょ」

娘の提案に全員が同意した。


  ◇


「……ついたぁあああ!」

娘の叫び。

そこは、山の中腹に開いた洞穴だった。ぽっかりと開いたそこにしつらえられているのは豪奢な門。木製だがかなり分厚く巨大である。赤地に金泥で縁取りが描かれ、何やらでっかい鬼面がふたつ、門の両扉に据え付けられていた。ただならぬ霊気を宿しているあたり、恐らく侵入者を撃退する魔法の門番であろう。

もちろん元来の住人である娘は、何の問題もなく門に手をかける。

「さ。中へどうぞ。荷物置いて来ちゃったから、大したものは出せないですけどね」

一同はぞろぞろと、娘の後に続いた。


  ◇


「師匠ぉ。戻りましたよぉ」

洞窟の中は、屋敷と見まがうばかりの豪奢さであった。岩肌を利用しているが、削り取られ、壁面には様々な怪物や瑞獣。神仙といった像が彫り込まれている。それらの合間には木材で作られた柱が飾り付けをしており、見るものを飽きさせない。ところどころに吊るされた提灯は魔法の灯りをともしており、地中だというのに湿気も感じなかった。かなり住みよい住居と言えそうである。

魔法使いの住居―――いわゆる洞府だった。

入ってすぐ、鍛錬の場らしい広い部屋―――壁に武具がかかっている―――を抜け、さほど進まぬうち。

「うん?お客さんかい?」

奥から出てきたのは、目も覚めるような鮮やかな紅の衣に身を包み、尖った耳とフサフサの尻尾を備えた、狼相の麗人だった。


  ◇


「それはそれは!うちの弟子が世話になったようだね」

設けられた昼餉の席で、狼相の魔法使いは愉快そうに言った。

洞府内に設けられた食堂である。対面に座る女武者の声なき言葉を、麗人は聞いていたのである。

その左右では、子供たちと娘が食事をとっていた。食器は銀。山菜と肉が入った汁はよい香りが漂う。

「そうなんですよもう。死ぬかと思いました。

あ、そうだ師匠。後で飛来椅ひらいい貸してください。お客人の首と、それから荷物取ってこなきゃ。私の、壊れちゃったんで」

「仕方ないねえ。荷物はともかく客人の首を置きっぱなしにしておくわけにはいかないからね。食べたらさっさと取りに行っておいで」

「はぁい」

師弟の会話の様子を観察している女武者。この麗人、どうやら年経た狼か何かが知恵をつけ、変化した妖怪なのだろう。人外の魔法使いが人間の弟子を取るのは東方では珍しい事ではない。というか、女武者自身も似たようなものではある。何しろ首がない。逆に麗人が、死者である女武者を恐れぬのもそのあたりに一因があった。話が通じるなら同じ魔法使い仲間なのだ。

急いで椀の中身を掻き込むと、娘は食堂から飛び出していった。

「気を付けるんだよ」

「はぁい」

弟子を見送ると、麗人は女武者へと向き直る。

「すまないねえ。そそっかしい弟子で」

いいえ、と振る女武者。助けるつもりが、実際の所は助けられたのはこちらだった。あの娘がいなければ、兄妹は怪鳥に喰われていただろう。

ふたりして、食事中の兄妹に目をやる。

「お前さんたち、歳はいくつだい?」

「むっつ」「いつつー」

麗人の問いに答える子供たち。大変元気がある。怪物に連れ去られて大変な目にあった後とは思えなかった。

「そうかい。えらいねえ。その歳で」

やがて、麗人は、女武者へ告げた。

「その体で人間の子供を育てるのは大変だろうに」

女武者は素直に。他はどうとでもなるが、人間と交易できぬのが中々厳しい。定住するにしてもよい土地が見つからぬ。いずれは立ち止まらねばならない、とはずっと思っていたのだが。

「ま、しばらくうちに泊まってくといい。あの子たちに必要なのは、休息だろうさ」

女武者は、相手へと深くを下げた。

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