第七話 ちゅーとりある:ぜろ その3

死刑+懲役9年って長いのか短いのか(魔法が実在する世界やからな)

闇の中に、一筋の光が差し込んだ。

軋みを上げながら開いていくのは木製の扉。朱塗りのそれは四隅を、頑丈そうな金属の枠で補強されている。音はそこから出ていた。長い事開かれていなかったのであろうか。

外の灯りで明らかになった内部は、削り取られ、歩きやすく加工された岩肌である。

「……ぇ…?」

「ああ。構わないさね。家主から管理を頼まれたんだけどその間使っていいって言われてるからね」

「…ぉ……」

「30年は戻らないって言って出てったのが8年前だからね。その子たちが元服するまでは大丈夫だろうさ」

まず入って来たのは狼耳にふさふさのしっぽを備え、紅の道服を身に着けた麗人である。後には、長い黒髪を備え、腰に立派な太刀を佩いた女人。しかし彼女の首は胴体と生き別れている。女武者であった。

二人が訪れているのは、麗人が構える洞府のすぐ近くにある、放置された洞窟だった。近いと言っても常人の足なら二日はかかるだろうが。この辺りの山系は霊峰で、魔法使いが比較的多数住み着いているらしい。何でも家主は出かけて留守らしく、管理を任された麗人が期限付きで貸してもよい、と言い出したのである。生活物資も供給してくれるという。もちろん対価は必要であるが。女武者としても願ってもない話だった。最も、会ったばかりの相手にここまで親切にしてくれていいのか?と聞いたところ、「赤の他人の幼子育ててるような魔法使いが悪人なわけあるかい」との返事が返って来た。

「まぁ時折賊が入り込んでないかとか見回ってる程度だから、掃除しなきゃならないけどね」

「…ぉ……」

歩くたびに舞い上がる埃。湿気も高いが、調度に痛んだ様子はない。魔法がかかっているのかもしれぬ。

入ってすぐは広い空間。その左右と、奥に通じる通路があり、奥に進むと左右に様々な部屋があった。最奥が洞主の部屋。八卦炉と呼ばれる魔法の炉が設置された部屋や、清流が流れ込んで来る部屋もあった。

一通り歩き回った両者は入り口に戻ってくる。

「で、どうだい?」

「……ぁ……」

「そうかい。じゃ、これでお隣さんだね。よろしく頼むよ」

話はまとまった。


  ◇


「掃除ー」「お掃除ー」

箒を振り上げているのは兄妹である。

ふたりの頭上でふよふよと浮かんでいるのは何やら緑色に黒の縞模様が入った楕円形の果実。子供たちならば両手で一抱えは必要であろう。顔が彫り込まれ、中に明々と燃え盛る炭が放り込まれたそいつは瓜のから作られた一種の死にぞこないアンデッドだった。西方でなら提灯持ちの男ジャック・オー・ランタンと呼ぶらしい。兄が頑張って作った初の魔法的怪物である。いかに夜目が利くとはいえやはり掃除するなら灯りが必要であろうとのことで投入された。ちなみにくり抜いた中身は中々に美味だった模様。

他にも桶やら雑巾やらがふわりと浮かび上がっている。女武者によって使役されている使鬼しきが持ち上げているのだった。こちらも死にぞこないアンデッドの類で、天地の気を融合させて作る魔法生物と呼んだ方が相応しい場合や、自然霊、死者の魂魄などを用いる場合もある。今回は、以前倒した山賊どもの魂だった。9年仕えて罪を償えば再び人間に生まれ変わらせるとの約束である。ちなみに首領の魂魄はいない。女武者たちが戦いの後始末にてんやわんやとなっている間にからである。恐るべき方術士だったが、まあ死んでしまった以上死霊術師相手に復讐に来たりはすまい。何しろ勝ち目がない。

「……ぁ……」

女武者の一声で、新居の大掃除が開始された。

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