ホラー?(だからダークファンタジーだってば)

豪雨になった。

夜半。雨音はすべての音を呑み込み、寝室に静寂をもたらしている。

神殿の一角。小さな部屋にある、ひとつしかない寝台で兄弟は身を寄せ合い、眠っていた。

ふと。兄が目を覚ます。

「……どうしたの。兄ちゃん」

続けて妹も目を開け、訊ねるが兄は答えぬ。どころか、枕の下に手を突っ込み、大切にしていた品物を取り出す。

小刀。あの首のない女人から貰ったそれを。

魔力を帯びたそれを抱きしめ、兄は闇の向こう。扉の先を睨みつけていた。額から流れ落ちるのは一筋の汗。

その尋常ではない緊張に、妹は怪訝な顔をする。何が起きているのだろうか?

と。

闇が、入り込んできた。

きちんと閉じられた扉のわずかな隙間。そこから滑り込んできたのは、霧。まるで生きているかのように凄まじい勢いで侵入してきたそいつは、たちまちのうちに凝り、見上げるような巨体となる。

そいつは、鬼だった。二本の角を持ち、おぞましい形相で、はち切れんばかりに膨れ上がった肉体に衣を纏った鬼神である。

そいつは、兄弟が目を覚ましたのに気付いたのか気付いていないのか。動きからは分からなかったが、寝台へと歩み寄ってくる。

ふたりの体に覆いかぶさる布団へと手がかかり、そしてめくりあげられた瞬間。


―――GGYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?


鋭い一撃が、怪物の右目をえぐった。立ち上がった兄が、手にした小刀を突き立てたのである。それで終わらなかった。

刃が縦横無尽に振るわれ、幾つもの傷が刻まれた。脇腹に与えられた一撃は深く、膨大な出血を強いたほどである。

怪物は霧散。霧と化し、扉の向こうへと逃散していった。

「はぁ、はぁ……」

雷鳴が鳴り響く。

兄は、妹を抱きしめ、扉をいつまでも睨みつけていた。


  ◇


―――なんということだ!!

鬼神は、逃げ込んだで身を縮こませた。子供だからたやすかろうと思えば、まさか力ある魔剣を携えていたとは!!

深手を負ってしまった。この傷を癒すには滋養が必要だ。それも早急に。

あの子供。男の方の生き胆であればさぞや効果てきめんであろうが、そういうわけにはいかぬ。参った。

己の寝床。影の中から、その持ち主である男を見やる。とり憑いている神官長の、うなされた顔を。

そもそもの始まりはこの男に討たれたことだった。先日刃を交え、鬼神は滅びかけたのである。咄嗟に神官長の影に身を隠して一命は取り留めたが。どころか敵手の生命を夜な夜な吸い取ってかなり力を取り戻すことができた。

その仕上げに、あの子供。見鬼の霊力を宿しているあの男の子の生き胆を喰らえば、己は完全に復活することができたはずである。それが返り討ちとなるとは。

急がねばならぬ。この騒ぎで己の正体が露見する危険性がある。

悪しき鬼神は、身を守るべく行動を起こした。

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