第三話 寺院の悪夢

ただのめっちゃええ人だ(人ではなくデュラハン)

小さな村だった。

山間の険しい地形に合わせて作られたのであろう家々のすぐ外は緑に包まれており、谷川と、街道に沿って作られた段々畑が目を引く。それらを見下ろす位置には朱塗りの木材で作られたらしい寺院が建っていた。

今。この寺院の門を、小さな客が叩いた。


  ◇


人の類が光の神々を信奉することはどこでも変わらない。人々は、それぞれの土地ごとの供物を神々に捧げ、祀った。

ここ。地母神の神殿で、朝の勤めを終えた神官や侍者アコライトたちが各々、仕事に取り掛かるべく祈祷所から出て来た時の事。

門を叩く音が響いた。

老齢の神官が門より顔を出すと、―――いない。

右を見る。いない。

左を見る。いない。

下を見る。―――いた。

そこに立っていたのは、随分と小さな男の子と、そして女の子である。

「おや。どうなされたね」

男の子が、手に持っていた包みを差し出した。大きな葉で包まれた、中身は樹皮であろう。手紙だろうか。

「私が見てもいいのかね」

問いに、ふたりは頷いた。中身を改める神官。

そこには随分な達筆で、文章が刻み込まれていた。

―――近くの村が魔物に襲われ滅んだこと。この子達はその生き残りであること。魔物は討ったこと。子供たちの面倒を見てほしいということ。差出人は魔法使いであること。人前に出られぬ姿故にこのような無作法になってしまうことを許して欲しいということ。子供たちに、養育費として小刀を持たせていること。

神官が手紙を読み終えた時。男の子が、小刀を差し出した。随分と立派な鞘にはいった逸品である。どころか、魔法使いではない神官ですらわかるほどの強大な魔力。真に貴重な、力ある呪物に違いあるまい。

「……それはお前さんが持っていなさい。さ。大変じゃったろう。中へ」

神官は、近くを通りがかった侍者アコライトに子供たちの面倒を見るよう命じると、自身は主だったものを集めにいった。近隣の村が滅んだとなれば、一大事であったから。


  ◇


村を見下ろせる岩山の上。

そこで、女武者は全てを見ていた。神殿に子供たちが受け入れられる様子も。あれならば彼らは大丈夫であろう。

安心した彼女は、眠りに就くべく木々の合間へ姿を消した。

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