なんか母に一日一話読むのが限界とか言われてるなう(スマホで書いてるところ)

音すらも置き去りにして、手斧が振るわれた。

受け止めたのは槍。それを支える首のない女には、余裕がない。

残像すら帯びる神官戦士の攻め手に、敵手たる姫騎士は反撃の糸口すらも掴めぬ。どころか、続く一撃を受け止めた彼女の足下が砕け散る。反動を支え切れぬのだ。

恐るべき威力。そして敏捷さであった。

岩妖精ドワーフに付与された魔法は身体能力解放フル・ポテンシャル。肉体に秘められた潜在能力の全てを引き出し、かつその負担から保護する秘術である。

それですら身体能力は姫騎士の方が上。にもかかわらず、押しているのは神官戦士だった。

彼はひとりではなかったから。

攻撃をいなし、距離を獲ろうとした姫騎士。そこへ飛来するのは矢。回避しようとして、岩妖精ドワーフに距離を詰められた彼女は密着されることを余儀なくされた。得物の間合いを生かせぬ。

矢を放ったのは周囲を飛び回る旅人である。彼女が神官戦士に秘術を付与し、そして距離を離そうとすれば援護射撃をしてくるのだった。だから前回のような手段は使えない。悠長に組み付いたとしても、神官戦士が絶命する前に旅人によって討たれるだろう。

連続攻撃。その最後の攻撃を辛うじて受け止めた姫騎士は、宙を舞った。

そこへ撃ち込まれる幾本もの矢は、的確に右肩の関節を射貫く。いかな不死の体と言えども、入念の破壊されればその部位は使い物にならなぬ。

大地に転がり、勢いのまま立ち上がる姫騎士。そこへ、神官戦士が迫った。

使えるものはないかと周囲を探る姫騎士。―――あった。あれだ!

すぐそばで壮絶な格闘戦を繰り広げている恐竜と樹人トレント。姫騎士は、そちらへと駆け寄った。


  ◇


───ああ。暗いな。

照りつける陽光の中にいながらも、姫騎士は真なる闇の中にあった。

そこは、一筋の光すら射さぬ閉所だった。高司祭の寝室。彼女の生首が安置されている台の周りの床に、鉱物の塗料で描かれているのは不可思議な図形である。

死者の出入りを阻止する魔法円。仮に姫騎士の胴体がここにいても、首を取り返すことは叶うまい。円の中に進入できぬのだから。

生命さえあれば子供でも踏み越えることのできる結界。されど彼女にとってはこれは牢獄に等しい。逃れる術はない。

だから、姫騎士は諦めの境地にいた。

願わくば森妖精エルフたちには勝って欲しい。そしてここへと踏み込み、己の頭をどうか砕いてはくれないだろうか。

もはやそれだけが彼女の願い。そのはずだった。

だから、突如として場を包んだ呪力。続いて炸裂した火球ファイヤーボール入り口を吹き飛ばしたとき、姫騎士はぽかん、としていた。

「……ぁ…!?」

続いて入ってきたのは、こしにわら人形を下げ、棍棒を片手に持った大小鬼ホブゴブリン。いや、そいつはたちまちのうちに体をしぼめ、見覚えのある外見へと変わっていく。

少年の姿へと。

───ああ。これは夢なのだろうか。

呆然と相手を見上げる生首の前で。あのときと同じように、少年は告げた。

「さあ、一緒に逃げよう」

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