勘のいい奴は嫌いだよ(ぇー)

磨き上げられた通路を、闇妖精ダークエルフが歩いていく。

地下をくり抜いて作られた神殿は四方が岩である。その壁には驚くべき緻密さで邪悪なる神話が刻み込まれ、神の威光を伝えていた。

通気性は意外と悪くはない。地下は大気が澱みやすく、窒息の危険が常にあるからだった。闇妖精ダークエルフは光差さぬ地下を好むからそのあたりの工夫は岩妖精ドワーフにも劣らない。

だから、空気の流れがわずかにおかしい。そう感じた神官は立ち止まり、周囲を見回した。

狭い通路である。その一部に障害物が置かれたかのような……

されど、特に何も姿はない。変化も感じない。

やがて気のせいだと結論付けた彼は、廊下を進み始めた。

空気を遮っていた者の真横を気付かず通り抜けて。


  ◇


―――危なかった……!

眼前で闇妖精ダークエルフが立ち止まった時、少年は息が止まるかと思った。手にした棍棒で相手をなぐり殺せればいいが、相手は永遠の命のほとんどを邪悪なる魔法や武術の修練に注ぎ込んでいる闇の怪物である。そう簡単にいくまい。

だから彼は、闇妖精ダークエルフが廊下の向こう側まで進み、そして姿を消すまでを見届けてから、ようやく動き出した。

今の彼は姿が見えない。魔法の力だった。姿隠しコンシール・セルフの秘術である。

少年には明確な目的地があった。彼が腰にぶら下げている藁人形には、道中でした死者の霊魂が入っている。この都市で処刑された、あるいは生贄にされた人の類。彼らの霊魂から話を聞き、姫騎士の首が安置されているであろう場所の目星をつけ、ここまでやってきたのだった。

複雑に入り組んだ通路を抜け、幾度かひやりとする場面をやり過ごし、たどり着いた先。

意外と小ぢんまりとした祭壇と、それに祈りを捧げている闇妖精ダークエルフの女がいた。

こちらに気付いている様子はない。あれなら不意を打てる。

そろそろ新しいが必要だった。

棍棒を振り上げる。形状変化シェイプ・チェンジの秘術は持続させたままだから、少年の腕力は人間以上の大小鬼ホブゴブリンのもの。闇妖精ダークエルフであろうとも一撃で殺すことができる。

鈍い音が響いた。


  ◇


肉体から引きずり出した闇妖精ダークエルフの霊魂。その口を割らせるのは意外と手こずったが、有益ではあった。彼女は留守を任された神官のひとりである。いかに遠征とはいえ神殿をもぬけのからわけにもいかぬ。故に彼女は少数の兵と共にこの神殿。ひいては都市全体を守備しているのだった。もう死んだが。

だから、少年は必要な情報を入手できた。姫騎士の首が保管されているのが高司祭の寝所だと把握できたのだ。

目的地は近い。


  ◇


さきほど廊下で少年とすれ違った闇妖精ダークエルフ。彼は、たびたび後方を振り返った。やはり先ほどの奇妙な気配が気になったのである。

闇妖精ダークエルフに限らぬが、妖精族は直観を大切にする。それは魔法を扱うにあたって重要なものだからだ。

故に彼は来た道を戻った。この神殿、ひいては都市の留守を任されている神官が祈りを捧げている、祭壇の部屋へと。

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