寝ぼけて銀河縦断ふたりぼっちの方に投稿しそうになった(正確に言うとあっちで書いてたってことね)

少年の信条は用心深さである。

だから彼は拙速を尊んだ。逆説的だが、時間がかかればかかるほどに露見の可能性は高くなる。故に、彼は、寝室の扉を開くのに森妖精エルフたちから得た二枚の呪符を用いた。無音ミュートによって音を立てることを禁じた火球ファイヤーボールを炸裂させたのだ。これならば罠もへったくれもあるまい。

予想通り、扉は吹き飛ばされ、少年は足を踏み入れた。

中にいたのは、黒髪の美貌の生首。驚愕の表情を浮かべた彼女は、結界の中からこちらを見ていた。

「迎えに来たよ」

手を差し伸べる。部屋に踏み込み、姫騎士の生首を抱き上げる。

いや、抱き上げようとして、生首が口を開いた。

後ろだ!と。

反射的に姿勢を崩し、倒れ込んだ少年。その背を、長剣が切り裂いた。

浅い。故に続く攻撃は素早かった。転がって避ける少年。この段階でようやく彼は、敵の姿を目にした。

闇妖精ダークエルフ。銀髪に黒い肌、尖った耳で、身に着けているのは動きやすそうなローブである。先程すれ違った男だった。

―――なぜここに!

少年には考える暇もない。もはや部屋の隅に追い詰められた彼に、剣が振り下ろされる。

だから少年は、裂帛の気合と共に、練り上げた思念をそのまま相手へと叩きつけた。

魂の拳アストラル・フィスト闇妖精ダークエルフの魂魄を殴り飛ばし、引きずられた肉体が数歩後ずさる。

それに立ち向かう形で、少年は立ち上がった。こいつを倒さなければ逃げられぬ。

ほんの数歩の位置にいる姫騎士のことを意識に留め置きながらも、彼は呪句を唱え、印を切った。

対する闇妖精ダークエルフは刃を突き込む。この間合いならば術よりも剣が早い!

刀身が、少年の脇腹に潜り込む。魔法が完成したのは、長剣の鍔が少年の肉体に触れるのと同時である。

少年の拳足に呪力が宿り、それは全てを凍てつかせる氷結武器アイシクル・ウェポンとして顕現した。

少年の掌が、闇妖精ダークエルフの喉元を掴んだ。

驚愕の表情を浮かべたこの闇の種族の首はたちまちのうちに凍り付く。それは内部まで浸透し、そして砕け散った。

胴体と首が生き別れ、絶命する闇妖精ダークエルフ

少年は術の効果を一時中断すると、剣を傷口から抜き、そして術の効果を再開。傷口を氷結させて塞ぐと、ゆっくり振り返った。

姫騎士の生首へと。

「……ぉ……っ!」

「…僕は大丈夫。急所は外したから」

少年は調息し、肉体の治癒力を増進させる。死霊魔術の神髄とは生と死の循環に手を加えることにあった。霊の力を肉体に及ぼし回復を期せば、この程度で死ぬことはない。

愛おしそうに彼は生首を抱き上げると、その瞳をじっと見つめる。

「―――いいかな?」

「……ぅ……」

少年と姫騎士は、唇を重ね合った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る