大規模会戦ってパラメーター増えるから書くの大変だよね(かきかき)

決戦が生起しうる状況というのは限られる。

それは合意のもとに行われる一大事である。戦力を取りそろえ、目的の場所まで移動し、敵前に並べるだけでもそれは極めて困難な事業だった。更には、勝算がない側は決戦を回避しようとする。

だから、それは互いに拮抗する戦力同士の間でしか起こりえない。

通常は。

奇妙な決戦であった。

三千に迫る闇の軍勢が展開しているのは陽光が燦々と降り注ぐ平原。

対する森妖精エルフたちの軍勢は、森を背にして向かい合っている。その数は三百。いかに種族全体が魔法使いだとは言え、陽光の下ではそれは減衰する。だから、彼らは圧倒的に不利であった。

それでも、彼らはここで敵を迎え撃たねばならなかった。

木々の枝葉は陽光を遮るし、あるいは夜になれば太陽神の加護自体が失われる。そうなれば、ますます不利となるのは森妖精エルフの側だったから。

ここならば、闇の軍勢は不浄の怪物も闇の魔法も投入できぬ。

だから、時間は森妖精エルフたちにとって敵だった。太陽が沈む前に敵勢を撃破せねば、勝ち目は完全に失われるのだ。

両軍が激突するときは、間近。


  ◇


森妖精エルフ族の武装は流麗なものである。装飾が施された兜。その身を守る鎖帷子と、不可思議な呪力を紋様で封じ込められた戦衣。腰に剣を帯び、弓を携えた彼らは一人一人が恐るべき戦士であった。

ことに、大森林の森妖精エルフたちの勢力は大きい。彼らの武装は河の底より掘り出された魔法金属から作られている。これほどまでに魔法の武器が充実した軍勢も、そうそうはあるまい。

されど、それは敵も同じだった。闇妖精ダークエルフたちは強力な魔法の武具で完全武装しているのである。

今。整然と並ぶ美麗な森妖精エルフたちの前を、一騎の武者が駆け抜け、その姿を誇示していく。

旅人だった。

他の森妖精エルフたち同様に完全武装した彼女が跨っているのは、鷲の頭部と翼、獅子の下半身を備えた鷲獅子グリフォン。並みの騎馬を凌駕する体躯のこの魔獣は誇り高い。主人と定めた者しか背に乗せぬのだった。

彼女は、軍勢中央。こちらは白馬に騎乗した兄の傍へと、騎首を巡らせる。

妹の姿を認めた兄は、口を開いた。

「お前のやんちゃもこういう時は心強い」

「そういう言い方はないだろ」

旅人は苦笑。

彼女の兄。すなわち戦士の長が告げたやんちゃとは、旅人が子供の頃に数々の武勇伝のこと。河に火球ファイヤーボールを投げ込んで魚を獲ったり、怪物を退治したり。彼女が跨っている鷲獅子グリフォンもそのひとつである。冒険の末に手に入れた卵を、旅人が孵したのだった。

「それで、あの岩妖精ドワーフはいつくる?」

「分からねえ。あいつ自身が約束に厳しいのは保証するが、何しろ妖精族ってのはどいつもこいつも時間にだらしがねえから……」

「同じ妖精族から出た言葉とは思えんな」

ふたりは笑い合い、そして敵へと向き直る。

兵が足りぬ。疫病は駆逐されつつあったが、回復した者がすぐ戦えるわけではない。彼らが体力を取り戻すまでは長い時間がかかるだろう。援軍の宛はあったが、いつ来るかは分からない。それまで敵が待ってくれるとも限らぬし、何より日が落ちれば勝ち目はなくなるのだった。

よくないことずくめであるが、悪いニュースはまだあった。

敵集団中央。先頭に見えるのは、漆黒の甲冑を身にまとった首のない女。

全身に魔除けの呪が刻まれたあの鎧ならば、陽光で減衰した魔法などたやすく退けるであろう。彼女自身が著しく陽光で弱体化するのを差し引いても、厄介極まりなかった。

「あれを何とかせねば」

高位の死にぞこないアンデッドは時に、合戦の趨勢そのものを左右する。強力に魔法で武装しているとなればなおさらだった。

「そっちもまぁ、宛はある。うまく行くかどうかは分からねえが」

「そうか」

ふたりは会話を打ち切った。敵勢にも動きがみられたから。

こうして、合戦が始まった。



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