名探偵が多すぎる(問題)
「おぉ。ようやく見つけたわい」
山の斜面。茸採りをしていた少年の背から声をかけてきたのは、平服に手斧を腰からぶら下げた
神官戦士である。
少年はゆっくりと振り返った。
「ああ。目が覚めてからは初めてですね」
少年は作業を中断し、体ごと相手へ振り返る。護身用の短杖は脇に転がしておく。
「うむ。眠っている間、手当をしてくれたと聞いてのう。礼を言いたいと思っておったんじゃよ」
「そんな、礼だなんて。
人は助け合わなきゃ生きていけませんから。
―――僕は、この村でもらったものを、次の人に手渡しただけです」
「情けは人のためならず。か」
「?」
「人を助けることは、まわり回って自分の助けになる、と言うことじゃよ。
隣、いいかのう」
「どうぞ」
二人は腰掛け、村を見下ろす格好となる。神官戦士は口を開いた。
「おまえさんは魔法使いだと聞いた」
「見様見真似で覚えただけです。大した腕前じゃありません」
「なんと。
見様見真似で魔法を身に付けるなどなかなか出来ん芸当じゃぞ」
「必死でしたから……」
少年は、あの地下迷宮でのことを思い出していた。まだ小さかった頃。故郷を闇の怪物どもに滅ぼされ、そして自らは労働力として連れ去られた。当時は小さかったから、もはや故郷がどこなのかすら分からぬ。そんな彼が生き延びてこれてのは、運。そして少しばかりの頭の回転のよさと、頑丈な体をしていたことだった。さもなくばすぐさま死んでいたはずだ。闇の者どもの酷使によって。あるいは遊びで殺されていたか。
「実は、お前さんに聞きたいことがあってのう」
「なんでしょうか」
「実はの。わしは仇敵を追っておるんじゃよ」
「……仇敵」
「うむ」
そして、神官戦士は昔話を始めた。
◇
人の類が恐れる闇の帳も、
だが、何事にも終わりはやってくる。
その日、攻め込んできたのは魔術師に率いられた闇の軍勢。
そのはずだった。
そいつは、化け物だった。
漆黒の甲冑を纏い、手に槍を構えた女体。首のないそいつは魔法で生み出された不死の怪物にちがいあるまい。
不浄の怪物どもを率いているらしいそいつを滅ぼすべく、神官戦士は、火神の加護を願った。自らの魂の内に築いた祭壇。それを通じて援助を願ったのである。
神は、それに応えた。
夜の世界の秩序を守護するために太陽神より託された権能。強大なる霊力は、神官戦士が手にした戦斧から発される一瞬の閃光、という形で顕現した。
その一撃は、洞窟に攻め込んできた有象無象の
まさしく、神威と言えた。この威力に抗えるものなどいるはずもない。
―――首のない女を除いて。
陽光が通じなかったと見るや、神官戦士は次なる加護を誓願した。手にした斧へと
彼は、仲間たちと共に敵へと挑んだ。幾人もの戦士が武装に聖水を振りかけ、あるいは
一斉に襲い掛かった戦士たちの数は四人。火神の神官を含む手練れが同時に攻撃を仕掛けたのである。いかな達人であろうとも絶命する。そのはずであった。
そうはならなかった。
女は恐るべき武技の持ち主であった。彼女はまず、戦士の一人を刺し殺した。槍を投じたのだ。
そこからは恐るべき早業である。深く踏み込んだ彼女は、別の戦士から斧を奪い取り、縦横無尽に振るった。首が飛び、四肢が千切れ、胴体が肉片と変わった。
神官戦士が相手の一撃を受け止めることができたのは、幸運という他ない。
されど、手にしていた武器は耐久限界を迎えた。怪物の剛力に耐えられなかったのだ。
続いての攻撃は、蹴り。首のない女の強烈な回し蹴りが、受けた盾ごと神官戦士を吹き飛ばす。
宙を舞い、地下水脈へと落下していく神官戦士。彼が最後に見たのは、奥へと突き進んでいく首のない女の姿だった。
◇
「……次に気が付いた時、そこは集落の外。川岸に流れついておってのう。わしを助けたのは
「……」
「動けるようになって、集落へと戻ろうとしたんじゃがな。
そして、
「お前さんに聞きたいのは、この首のない女の居場所じゃよ。
奴を使役していた闇の魔術師の居所は分かっておった。半年以上前かの。奴らを討伐するため、わしは人の類の軍勢に加わっておった。戦力は十分に取り揃え、首のない女を倒す算段も付けてのう。
じゃが。
いざ、奴の住まう
ただひとつ。首のない女だけを除いて。まぁ奴は元から死体じゃが。
おっと。そうそう。思い出した。他にも生き残りはおったわい。奴らの奴隷とされておった子供が2、3人。可哀想に、隠れて震えておった。彼らに聞いても、女の行方は分からなんだ。
ただ、気になる事を聞いた。彼らはこう言うておった。
『奴隷の男の子がひとり、見当たらない』と。
該当している死体はない。喰われた形跡もなかった。
ならば。男の子はどこにいったのかのう。首のない女と共に消えたわけじゃが。不思議じゃ」
そして、
対する少年は、黙って。じっと、その話を聞いていた。
「……お前さん、奴の居所を知っておるな?」
「……知りません」
「…………そうか。邪魔したの。後は自力でなんとかするわい」
神官戦士は立ち上がり、その場を辞した。
彼が村を立ち去ったのは、この日の昼頃だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます