さりげに味方キャラがこの魔法使うの初です(レベルアップしました)

───まさか村ぐるみで隠していたとは。

神官戦士は苦笑。少年が巨人を倒した、と言う話は事実であろう。ただし、その傍らには首のない女もいたはずである。さもなくばあんな子供が巨人に打ち勝てるはずもない。村は彼らに恩義があるのだ。だから隠していたのだろう。

そんな彼らに首のない女を出せ、と言ってもうんとは言うまい。やむを得なかった。まぁ問題ない。自分は村を出た。監視していればそのうち、首のない女は戻ってくるはず。

だから彼がしているのは、村を監視するのに適切な場所を探すこと。

大森林は恵み豊かと聞いている。神官となる修行の旅の途中、生存術サバイバルも存分に実践していた神官戦士にとっては良好な環境と言えた。酒がないのだけはつらいが。あの村の酒は旨かった。故郷の火酒には劣るとは言え。残念である。

森の中を進む彼。完全武装の彼は、今日の寝床を用意するべく周囲を見回した。

その時である。

───!?

生き物の気配。人の気配を木陰に感じた彼は、そちらに向き直り武器を構えた。

「───彼女を、殺すんですか?」

聞こえてきたのは覚えのある声だった。つい先ほど言葉を交わした少年の声。

「ああ。あの首なし騎士デュラハンを滅ぼさねばならん。邪魔はせんでもらえるかの」

「やめて欲しい。

───そう言ったら、やめてもらえますか?」

その問いかけに、神官戦士は首を横に振った。

対する少年は、叫ぶ。

「どうして!?彼女はもう人を殺したりなんてしない。ただ、静かに生きていきたいだけなんだ!」

「……すまんのう。

じゃがな。忘れられんのじゃよ。

わしの故郷の話はしたな?あれには言っていないことがあっての。

結局、一度故郷に戻ったんじゃよ。入念に準備し、多勢じゃったが。

ひどい有様じゃった。不浄の怪物となり果てた幼子。まだ歩き始めたばかりの小さな子供が、腐りかけながらこっちに向かって歩いてきおってな。

気がついたときには、その子の首を刎ねとったわい」

「───」

「罪は償われなければならん。あの女は、それに値することをした。

しかし、お前さんよくぞあんな怪物を手懐けたもんじゃな。

おおかた、あの女を縛っていた魔法だかなんだかの弱みを奪ったのじゃろう?」

それを操り、まさか闇の軍勢を滅ぼすとは。

とんでもない子供だ、と神官戦士は苦笑。

「彼女は怪物なんかじゃない」

「そうか。これはすまんかった。

───お前さん、何故あの女を庇う?」

「好きな人を守るのに、それ以上の理由が必要ですか」

「愚問じゃったか」

「いえ」

ようやく腑に落ちた。支配し、される関係ではない。この少年はあの女を解き放ったというわけか。自発的に、あの怪物はこの少年に従っているのだろう。

それを知ったところで、する事が変わるわけではないが。

「どうしても、考えを改めてはもらえませんか」

「わしら岩妖精ドワーフは石頭でのう。一度決めたらてこでも動かんのじゃよ」

「わかりました。

───なら僕も、あなたを見習う事にします」

会話がとぎれると同時。神官戦士は踏み込んだ。少年が隠れている木陰へと。

殺すつもりはない。死なない程度に痛めつけようと考え円盾を振り上げた彼は、見た。

誰もおらぬ木陰。息づかい。気配。そう言ったものだけが伝わってくる無人の空間を。

───!?

「───音響置換リプレイス・サウンドじゃと!?」

それは、魔法だった。音の発生源を別の場所に変更する秘術の名である。

魔法は、新たな声を伝えてきた。少年の居場所より朗々と響きわたる呪句を。 力ある言葉が紡がれ、万物に宿る諸霊への語りかけが完了する。

強烈な稲妻ライトニングボルトが、神官戦士の背中に襲いかかった。

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