ダメージ二倍です(突撃に対して槍を構える)
―――それにしても厄介だな。
茂みに身を隠した姫騎士は、思った。
彼女のすぐ先には何匹もの巨体。森の木々の合間を
先の奇襲では1匹を始末できた。だが次は通じぬだろう。奴らには知性があるからだ。警戒されてしまう。
だから、次は別の方法を考えなければならなかった。
遠距離からの攻撃は難しい。姫騎士の膂力であれば投槍で奴らの頭蓋骨を貫通できるやもしれぬが、それには森の木々が邪魔をする。遠距離からは枝葉に遮られて狙いを定められぬのだ。一撃で仕留めない限り、奴らは魔法で傷を癒すという。闇の神々の加護を得ているに違いない。
とにかく集団で行動しているのが面倒だった。一匹だけならばなんとでもなるのだが。
今、彼女は無手である。長槍は大きすぎて隠密行動に向かぬからだった。
敵を見送ると、姫騎士はその場を後にした。
◇
水場で仲間の一匹を殺した相手の正体は分からぬ。恐るべき俊敏さで水中から一撃を加え、そして逃げ去ったのであろうことは推測が付いたが、誰も姿を見ておらぬからだった。
今後は水場と言えども安心はできない。巨体と魔法を兼ね備えた彼らにとっての天敵が現れたのだから。
慣れぬ土地である。しかも暑い。
山を下りたのは失敗だったか。
そうも思うが、今更戻ることはできなかった。餓えて死ぬからだ。今年は気候ゆえか食料が少なく、山にいる限り生きてはいけなかった。大森林の豊富な食料が必要だったのである。
獲物を求めて、彼らは移動を始めた。
◇
森の中を進む霜巨人たちの一匹。先頭を行く個体は、前方に人影がある事に気が付いた。
装飾が施され、ゆったりとした服。背中に包みを背負ったその女は、フードを両手で支えていた。
巨人たちの進路に飛び出した形の女は、一瞬振り向くと、すぐさま踵を返した。
逃げだした女。人間の女子供は、
怪物どもは、追跡を開始する。
森を疾走する女の足は速い。対する巨人どもは、木々をなぎ倒しながら追いかけなければならなかった。とはいえ歩幅が違う。追いつくのは時間の問題であろう。
そう思われた時、女が急に立ち止まった。かと思えば振り返り、そして、フードを降ろす。
露わとなった顔。いや。そんなものはなかった。そいつには首がなかったから。
女は跪くと、置いてあった槍を拾い上げ、構えた。4メートルもある長槍を、突っ込んで来る
立ち止まる暇はなかった。
槍は、正確に胸の中心。
巨体が得ていた運動エネルギーが一点へと集中、破壊する。
もはや加護でも癒すことはかなわぬ。
急速に、
◇
―――うまく行ったか。
巨人を仕留めた姫騎士。自らを囮として相手に一撃を加えた彼女だったが、しかし安堵してはおられなかった。先頭の一体を始末しただけで、巨人どもはまだまだいたからである。
立ち止まった奴らは呪句を唱え、印を切り始めた。あるいは手にした棍棒を投射しようとしてくるではないか。
物理的な一撃は脅威にならぬが、逃げ道を塞がれれば厄介だった。そこへ魔法が飛んで来るはずだ。
槍を取り返そうとして断念。深く相手の胸に突き刺さっている。
代わりに姫騎士は、たった今仕留めた相手の武器を奪い取った。
転がっていた倒木の棍棒。それに手を伸ばす。
姫騎士の全身。筋肉がはちきれんばかりに膨張し、凄まじい剛力を発揮した。
信じがたいほどのパワーを発揮した繊手が、巨大な丸太ともいえる棍棒を担ぎ上げる。
数歩で勢いがつけられ、棍棒が投じられた。
持ち主に比肩するほどの腕力で投じられたそれは、霜巨人の一体に激突。呪文を中断させ、たたらを踏ませる。
のみならず、転倒した巨人は後ろの仲間とぶつかった。
彼らが立ち直ったとき。その場に残されていたのは霜巨人の死体と、そして胸を貫いた槍だけだった。
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