姫騎士ってなんだっけ……?(姫騎士らしい振る舞いした記憶がない)

―――逃げ切れたか。

森の中。

姫騎士は、背後をながら思った。

まんまとしてやられた敵からすれば、深追いは危険であると考えるのは自然であろう。そこに付け込んで姫騎士も逃れてきたわけだが。

これで二匹倒した。引き続き奴らの戦力を削り取りたいところだが、厳しいだろう。姿を見せてしまったから。

奴らはどう考えるだろうか。先日自分たちを襲った人間と、今日襲って来た首なし騎士デュラハン。そして水中から奇襲してきた姿なき者。それらを結び付けて考えるだろうか?こればかりは相手に聞くわけにもいかぬ。難しい所だった。

何にせよ、武器を喪ってしまった。補充せねばならない。一度猟師たちと合流する事としよう。

判断を下すと、姫騎士はその場を後にした。


  ◇


―――してやられた!

霜巨人フロスト・ジャイアントは、明確な敵意を備えた相手の存在を認めていた。

まさか死にぞこないアンデッドが攻撃を仕掛けてくるとは。油断ならざる敵である。先日のニンゲンどもや、の水場での出来事といい厄介にもほどがある。

そこで、気が付いた。

水場での出来事。あの時仲間は、尖ったもので口の奥を穿たれていたのではないか?

今目の前に転がっている仲間の死体。その胸を穿っているのも尖った、細長い武器である。下手人は同一人物なのではないか?

そして、奴が身に着けていた衣類。かなり状態がよかった。ふつう、死にぞこないアンデッドは孤立している。ただでさえ生の喜びを知らぬ奴らは身なりに無頓着であるし、新しい衣類を補充するなど可能だろうか?何者かが操っているのではないか。

そこまで考え、しばらく前に襲撃してきたニンゲンどもを思い出す。

これらは同一の集団なのではないか。

だとすれば厄介だった。ただでさえ死にぞこないアンデッドは強力だというのに、それ以外にも戦力があるのだ。見つけ出さねばなるまい。そして、こちらも失った戦力を補充しなければ。

そこまで思案した霜巨人フロスト・ジャイアントは、ひとまずねぐらに戻る事とした。

まもなく太陽が、顔を出す。


  ◇


自分を見る目が変わった。

何が起きているのか。姫騎士は混乱していたわけだが、事実から先に述べれば、猟師たちの姫騎士に対する態度が一変したのである。

姫騎士が霜巨人フロスト・ジャイアント2体を斃したからであった。

そこは森の奥深く。少し歩けば川に出られる立地である。

ここに猟師たちは前線基地を置いているのだった。

幾つもの、慎重に偽装された差し掛け小屋がある。それは猟師たちが木々で造ったシェルターだった。急場しのぎにもかかわらず、中には火床があり、驚くほどに快適である。彼らは猟をする際、このような拠点を作る。ちなみにこれのしっかりした構造のものに土を上から被せ、中を加熱すると発汗ロッジ。すなわちサウナ小屋へと変貌する。

「見事にしてやったじゃないか」

姫騎士へと声をかけてきたのは、最初に薬師に伴っていた狩人。彼の態度は出会ったときと比べると、かなり軟化したように見える。

「……ぁ……」

「そうか。武器が必要だな」

この場所には予備の武器も幾つか置いてあった。その中から、巨大な槌を選び出す姫騎士。

「よくもまぁ、そんなものを持ち上げるな」

狩人の言う通り、常人には扱えそうもない重量の代物である。何でも魔獣の骨から削り出したものとか。

だが、姫騎士からすればちょうどよい。それに治癒の加護では酷い骨折は治せなかった。足の骨を粉砕してやれば奴らも歩けなくなるに違いない。

「…ぅ………」

「ああ。準備が整ったら総攻撃をかけよう」

狩人が頷き、他の猟師たちも賛意を示す。

やがて太陽が昇る。姫騎士は着衣を脱ぎ捨てると、を取るべく、事前に掘ってあった穴へと身を横たえた。

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